第13話 伝説の剣・中

「プロイラードの勇者だと? この少女が?」


 デカい衛兵が、アルナの顔を覗き込む。


「す、すみません……追放されちゃったんで、今はただの勇者ですけど」


「追放……そういやプロイラードから帰った奴に、選抜隊が魔王に返り討ちにあったとか聞いたことがあるな」


「そ、それです!」


 アルナは選抜隊なのか。

 勇者養成機関主席卒業で勇者の称号を得て、更に選抜されるとかすげえな。返り討ちにあったからってポンコツ扱いとか、周りの奴は何を見てんだ。


「それじゃあ期待ができるな、あの剣が通行の邪魔で難儀してんだ。誰が道の真ん中にぶっ刺したんだか」


 空から降ってきたのだろうか?

 人に当たらなくてよかったぜ。

 剣の下へ行くアルナの後ろに付いていくと、「お前は邪魔だ」的な目で衛兵から睨まれる。


「で、お前はこの勇者の何だ?」


「保護者です!」


 左手の主従の印を見せると、渋い顔ながら納得する衛兵たち。

 結構役に立つじゃねえか主従の印。

 リューシャも同じように主従の印を見せると、今度は衛兵たちから殺意ある視線を向けられちまった。


「ほら、アルナがやるぞ、よく見とけよ!」


「それじゃあ、やってみますね」


 アルナが地面に突き刺さった剣の柄を握ると、衛兵、野次馬、全員が固唾を呑んでそれを見守る。

 アルナが俺と視線を交わし、頷くと思い切り引っ張りだした。だが、いくらやってもビクともしない。


「んんンッッ!! ショータさん、無理です! 私じゃ抜けません!」


「よし、交代だ!」


 俺が代わりに引き抜くために剣に近づくと、なぜか衛兵が間に割り込んできた。


「勇者でやっても無理だったんだ。お前なんてやるだけ時間の無駄だろ」


「は? 俺は勇者の保護者だぞ。俺のほうが上に決まってんだろ。な、アルナ!」


「そうですよ! ショータさんなら、絶対抜けます!」


 アルナの力強い言葉に気圧された衛兵が道をあける。

 それでも俺を睨んでくることはやめないようだ。

 万一抜けなかった場合、土下座して謝ろう……これ、間違いなく伝説の剣だよな? 剣間違いとかないよな?


「ちなみに聞いておくけど、これ抜けたら俺の物にしていいんだよな?」


「抜けもしない先のことを考えても無駄だ、さっさとやれ」


 明らかに抜けないこと前提で答えてやがるな。

 剣の柄を握ると、手に馴染む感じがする。


「よっ! お? おおおおッッ!」


 全く抵抗なく、スポンジに刺さってたのかってくらい軽く抜ける。

 それも見た目に反して、重さを感じさせないくらい軽い剣だ。


「さすがショータさんですっ!」


「やっぱりショータンは男だねっ! お祝いに、あとでいいことしてあげる♪」


「おおおお! ホントにあいつ抜きやがったぞ!」

「死ね死ね死ね! その剣に刺さって死ね!」

「あんなにあっさり抜けるなんてな! とりあえずくたばりやがれッ!」


 剣が抜けると歓声とともに、俺に殺意ある声もちらほら聞こえ始める。

 絶対リューシャのせいだ。

 こいつらにもリューシャの本当の姿、マッチョなお兄さんを見せてやりたい! きっと同情の声が漏れるはずだ!


「どうだ、抜けたぞ、この剣は貰っていくからな」


 俺が剣を持っていこうとすると、その前に立ちはだかる衛兵たち。

 こいつらリューシャに対する嫉妬というよりも、この剣に用があるようだ。


「その剣は置いていってもらおうか。遺失物なんでな」


「だからさっき聞いただろうが。だったら落とし主が現れなかったら、当然、俺の物になるんだろうな?」


「なんだその理屈は。そんな法は聞いたこともないな。あとで小遣いをやるから衛兵所まで来い」


 何だ小遣いって、舐めてんのか?

 こいつらとここでやり合うのはマズいが、このまま渡すとかありえねえし、どうするべきか……ああそうか、剣に俺が主人と認められていたら、こいつらが持っていけるわけねえか。

 とりあえず、再び地面に突き刺すと、何の抵抗もなく地面にめり込んでゆく。


「これ面白ええな」


「貴様、何をやっている! さっさとこちらに渡せ!」


「持っていくなら自分で引き抜けよ」


 俺が一度抜いたため、すぐに抜けると思ったのだろう。だが、何人かの衛兵が挑戦するも、これまたビクともしない。


「どうなっているんだ……あいつは軽々と持ってたのに」

「何か細工をしたのではないだろうな?」


 怪しむ衛兵の前で、再び引き抜いてみせる。

 何が重いのかさっぱりわからない。

 次は地面に突き刺さず、置いてみた。

 地面にめり込むこともなく、重量があるわけではないようだ。


「これでどうだ」


「最初からそうすれば――――んんんんンンッッッッ、ぐぐぐぅぅおおおおッッ!! 持ち上がらんぞ!」


 普通に地面に置いてある状態の剣さえ、一ミリたりとも持ち上がっている様子がない。


「何やってんだ?」


「貴様、どうやってこれを持ち上げたのだ! 全く動かんではないか!」


「それはあんたたちに能力がないだけだろ」


 衛兵たちの表情が一気に厳しいものになると、さっきのデカい衛兵が近づいてきた。


「ふん、たとえ持ち上がらなくても、転がっている剣なら邪魔にもならん。貴様の所有物にはさせんぞ。残念だったな、ははははっ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る