第10話 誤解はまだまだ続く

 リューシャを仲間にした翌日、リューシャは宿でじっとできないとのことで、冒険者ギルドに連れていくことになった。

 正直、女の姿はすげえ美人なため、周りからの嫉妬に燃える視線は俺の優越感を刺激して、ドーパミンがどばどば出てたまんねえ。


「ねえねえ、どうして宿はショータンの部屋じゃないの? アルナちゃんだけ同室とかヒドくない?」


「一人で部屋使えてんだから文句言うなよ」


「だってさぁ、ショータンが隣にいるのに、ショータンのこと考えて一人でするのって切ないんだよぉ」


 こいつ何言い出してんだ……アルナが何のことかわかってない顔をしてるけど、絶対そのうち気づくぞ。


「リューシャは下ネタ禁止な。次アルナの前で言ったら、絶対故郷に帰らせるから」


「ショータンはアルナちゃんに甘いよね~」


 リューシャを睨みつけると、俺の腕に豊満な胸を押し付けてくる。


「アルナちゃんの前ではやめるからさ、二人の時はいいでしょ?」


「それどういう注文だよ」


「禁止にされたら、私死んじゃうよ?」


「なら、もう死んだらどうだ?」


「ショータンヒドい! アルナちゃんに言いつけるんだから! わたしに死ねって言ったって!」


 超めんどい……誰か引き取ってくれねえかな……。

 憂鬱なまま冒険者ギルドに入ると、どこからともなく笛による高音が鳴り響く。



 ――――――――ピィイイイ~~~~~~~~ッッ!!



「はい、そこの人、ギルドに娼婦を連れてくるのは禁止です!」


「わーい、私娼婦に見えるんだって!」


「そんなことで喜ぶなよ、違うんだから逆に怒れ」


 注意してきたのは笛を口にくわえたレナだ。

 こいつのせいで、余計周りの目がこちらに集中する。

 リューシャはリューシャで、娼婦に見えることは、褒められたと受け取っているようで、ずっと喜んでいる。


「こいつは娼婦じゃないぞ。えーと、説明は難しいけど一応仲間だ」


「娼婦を仲間にするのも禁止ではありませんからね。だからといって、ギルドに来てまでそういう行為は禁止です」


 どうやら、服装が過激な上に、俺の腕に胸を押し付けている行動に問題があるようだ。

 しかし、この行動をやめさせても、娼婦を侍らせていると思われるのもそれはそれで困るな。


「こいつは娼婦じゃない。証拠に、こいつ自身そういう経験がない!」


「ショータンヒドい! みんなの前でそんな恥ずかしいことバラすなんて!」


 周りの男たちのどよめきが凄い。

 拍手まで起こる始末だ。


「立派に夜のお仕事できるようになってみせるから! そんな素人呼ばわりはやめてよ!」


 このリューシャの一言で、レナの眼光が鋭くなる。

 リューシャが恥ずかしがってるのは、根本的に違う部分のようなんだが。素人呼ばわりが嫌ってなんだよ。ビッチは嫌がるくせに。

 ここはアルナに説明させたほうが丸く収まるかと思ったが、アルナは少し離れたところからこちらを観察していた。

 まだお子様だしな、この状況はキツいか……。


「やはり目指しているのは娼婦なんじゃないですか」


「違うもん。目指してるのはショータン専用だもんね」


「そういうことを声を張って言うな。そっちのほうがよっぽど恥ずかしいわ」



 ――――――ピッピィイイイ~~~~~~~~ッッ!!



 レナが再び笛を吹くと、ギルド内が静まり返る。

 転職したての新人のくせに、やることがいちいち派手だな。


「イチャイチャするなら、娼婦と認定し、奥の部屋に連れていきますよ」


「だからただの仲間だって言ってんだろ。それより早くあの徽章バッジをくれ。こいつは、そうだな……貞操観念がなくて俺に惚れてるけど、俺に相手にされることは永遠にないであろう処女冒険者だから」


「ショータンヒドい! 絶対相手になってもらうもん。それにまた処女って私が気にしてること言ってるしぃ」


 頬を膨らませ、なかなか可愛らしい顔を披露してくれる。

 これがあのマッチョじゃなけりゃ、すぐさま抱きしめるところだ。


「初めての冒険者なんだから、処女冒険者でいいだろ。処女航海とか聞いたことないか? 意味が違うんだよ意味が」


「あるけどさ……でもやっぱり言われたくないもん」


 ちょっとやりすぎたか……そんなに目を潤ませなくてもいいだろ。

 クソっ、見た目が超好みなだけに、こういう顔をされると強く出れらねえ。


「悪かったよ。なるべく言わないようにするから」


「……ありがとショータン。でも、なるべくなんだね」


 断言なんてできねえよ。

 それよりも、アルナだアルナ!

 遠巻きにこちらを見ていたアルナを手招きすると、恐る恐るこちらにやってきた。


「もう終わったんですか?」


「ああ、これで徽章をくれなかったら、全部受付のレナのせいだ」


「責任を全部こちらに押し付けてほしくないのですが」


 レナは徽章を差し出すと、周りの冒険者たちが散るように、手を使って追い払っている。それに素直に従う冒険者も冒険者だが。


「私の顔に何か付いてます?」


「いや、冒険者の扱いが雑だなぁと」


「いいんですよ、今はあなただけに集中しておきたいんですから」


 え、何か怖い! ストーカー怖い!

 レナは「用が済んだのなら、あなたもさっさと狩りにいきなさい」と俺をギルドから追い払った。



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