第9話 【拾う】それは人助けなり

「わかった。俺のスキルについて話そう」


 仕方なく俺のスキルである、【拾う】について詳細を教えた。

 一覧に載りさえすれば、金であろうと人であろうと拾えると。そして、拾ったら、なぜか主従の印が結ばれることも。


「それでわたしにも主従の印があったんですね」


「だからさっきは怒ってたんだね。セクシーなお姉さんを選んだのに、マッチョなお兄さんで現れたから」


「せくしーなお姉さん?」


 夢魔が口を滑らすと、アルナが首を傾げてみせる。


「一番弱そうな人から助けないとダメだろ? 消去法で消していったらお姉さんが残ったんだよ。あとも考慮しないとダメだしな!」


「そうですね、弱い人を優先した結果なら問題ありませんよ!」


 だからキラッキラした目で見ないでくれ……心が痛い。

 アルナが納得してくれたところで、この夢魔をどうするかだ。


「アルナ、この夢魔は俺と主従の印を結んでるし、たぶん害はない。俺を除いては」


「おかしいなぁ、ショータンにも害はないよ?」


「俺の貞操を狙ってるだろ」


「だ・か・ら、お返しに私の初めてもあげるよ!」


「だから、いらねえって言ってるだろ!」


 いつマッチョなお兄さんになるかと、常にヒヤヒヤする生活はゴメンだ。

 ヤッてる最中にマッチョなお兄さんになられたら、再起不能になる自信があるぞ。


「そうですよ! ショータさんはわたしが守ります!」


 俺と夢魔の間に入り、夢魔と対峙するアルナ。

 小さいながら頼りになる天使だ。


「ショータン、童貞なんて守っててもいいことないよ? それともその子で捨てるつもりなの?」


 こ、こいつとんでもねえことを聞いてきやがる。


「シ、ショータさんはそんなこと考えてたんですか? わたしにも心の準備が必要ですし、あ、あと五年は待ってほしいです……」


「え、いや、そういうつもりはないんだけど」


「な、ないんですか……やはり、女の子としての魅力がないんですね……」


 なんでショック受けてんだよ……。

 アルナはさっきまでの人物とは思えないほどヘコみまくっている。


「五年はちょっと……犯罪的だし……十年後なら」


「夢魔さん、そういうことらしいです! 十年後ならわたしでもいいそうですから!」


「そんなこと言っても、私を呼び出したのはショータンだし、私も真面目にショータンのこと思ってるんだよ? それでもダメだって言うの?」


「そ、それは……」


「アルナちゃんだっけ? 恋路の邪魔はよくないとお姉さんは思うよ」


「うぅ……そ、それなら」


 話がおかしな方向へ行っている二人の間に割って入る。

 やはりアルナはお子様だ。


「待て待て待て待てっ! アルナも何言いくるめられてんだよ。それにさっきの五年、十年の話もなんかおかしいし」


「ああ、あれはこの夢魔さんを言いくるめるために、ですね……」


「ショータン、もうワガママ言わないからさぁ、側にいさせてくるだけで満足するから、ダメ?」


 俺の腕に豊かな胸を押し付け、上目遣いでおねだりしてくる夢魔。

 あ~もう流されたい、流されて楽になりたい……でも元マッチョなお兄さんはイヤだ。


「もし、仮にだ、お前を側にいさせてやるとして、いったい何ができるんだ? このアルナは狩りにいなくてはならない存在だぞ」


 俺の質問に、可愛く指先を口元に当てる夢魔。

 できることを考えているのだろう。


「ん~、夜の奉仕?」


「お前経験ねえんだろうが」


「だったら何もないよぉ。さっきショータンは『一番弱そうな人から助けないとダメだろ?』って言ってたでしょ。だったら助けてよぉ。私何もできないから生きていけないよ? 見捨てるの?」


 露骨に可愛い子ぶりやがって、クネクネするんじゃねえ。

 元マッチョのくせに……ここははっきりと言ってやったほうがいいな。


「見捨てるとか、こっちの――――ん?」


 夢魔に詰め寄ろうとしたところ、袖を引っ張ってくるアルナ。

 その表情は、先ほどまでのものとは全く違い、真剣且つ深刻なものだ。


「ショータさん、ワガママを言わせてもらっていいですか? できれば、その夢魔さんを助けてあげてください」


「はっ? マジで言ってんのか?」


「……本気です。わたしと同じなんです」


 アルナの瞳は憂いを帯び、今の夢魔の話と、自分の身の上とを重ねているようだ。

 夢魔の奴、上手く取り入りやがったな。


「アルナ、この夢魔はこっちの優しさにつけ込んでるだけだぞ。それをわかった上で言ってるのか?」


 俺の目をジッと見つめ、首を左右にゆっくりと振るアルナ。

 これ以上言ったら、俺が悪者になりそうだ。


「わかったよ」


 嬉しそうに笑うアルナを差し置いて、俺に抱きついてくる夢魔。

 やっぱり気持ちいい……こればかりはどうしようもないな、クソッタレがっ!


「ショータン優しい! 頑張って尽くすからねっ!」


「お前はアルナに感謝しとけ」


「アルナちゃんもありがとねっ!」


 軽い、これほど言葉に重みがなく、軽い奴は見たことがないわ。


「私はリューシャ・リンド、これからよろしくねっ!」



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