第8話 そういうことじゃねえんだよ!

「お前どこからやってきたんだよ! なんで俺の頭上から落ちてきたんだ」


「知らんよ。オレを呼ぶ声が聞こえたと思ったら、ここに転移してたんだから」


「嘘言うんじゃねえよ! 俺はセクシーなお姉さんを希望したんだ! つうか声が聞こえるとか、わざわざ転移してくるとかどうなってんだ!」


 お兄さんは顎に手を当てると、少し悩みだしたようだ。

 この間に逃げようか? 主従の印てのをどうにかしねえと意味なさそうだしなぁ。

 とりあえず、あれを確認しとくか。



【収集値】

 35pt(MAXまで65ptです)



 減ってんじゃねえかよっ!

 やっぱりこいつで間違いないし、減ってるptがセクシーなお姉さんと同じじゃねえかよ!



「さっきの発言からして、この見た目が嫌なわけだな?」


「見た目の問題じゃねえぞ。優男になろうが、毛深いおっさんになろうが、俺はそういう趣味はねえから!」


「ははははっ、だったらこれでいいのだろう?」


 そう言うと眩しいくらい体を光らせ、次の瞬間、俺好みの、黒髪ロングのセクシーなお姉さんになっていた。


「こういうのが好みなんだよね? さあ、ヤろうよ」


「…………お前人間じゃねえだろ。つうかさっきまでマッチョなお兄さんだったろ。ヤれるわけねえだろうがッ!」


「えー、なんでよぉ! この姿なら不満はないでしょ?」


「そういう問題じゃねえよ!」


 色々と気持ちの問題があるだろうがよ!

 さっきまでムキムキマッチョのお兄さんだったとか、人間じゃないとか……ってこいつ男にも女にもなるって、もしかして夢魔か?

 つうことは、【本日の一覧】に載ってたものはどれを選んでもこいつだったってことか? ならptが一番少なかったマッチョなお兄さんが正解だったってことか?


 マジかよ…………そんなもんわかるわけねえよ!


 もしマッチョなお兄さんを選択していた場合、本当のムキムキお兄さんが来てたかもしれねえし。


「さっきから黙ってるけど、ヤりたくなった?」


「お前夢魔だろ! そんなビッチいらねえわ!」


「ビッチとかヒドいよ…………初めてなのに」


「それを俺に信じろと? 出会って早々『ヤらないか?』が第一声だった奴のことを?」


「だって私夢魔なんだもん。経験積まないと立派な夢魔になれないんだもん。誘い方なんて知らないし……初めてだから」


 可愛い顔してチラチラこっち見るんじゃねえよ!

 それに事あるごとに「初めて」を強調するんじゃねえよ!

 夢魔なら夢魔で、どうして最初からこの姿で現れねえんだよッ!

 ずっとマッチョなお兄さんの顔がチラつくじゃねえか!


「とりあえず、主従の印を解こうか」


「ヤだよ、立派な夢魔になるまで拒否する」


「じゃあ、そのままでいいから故郷に帰れ」


「ショータさん……」


「ショータさんて、どうしてお前が俺の名を……ってその声はアルナ!」


 振り返ると、背後には心配そうな目を向けるアルナが立っていた。

 今の俺には、この純粋な目が心にグサグサと刺さってきて痛いッ!


「ど、どどど、どうしてここにいるんだ!」


「ショータさんが遅いので、心配で捜してたんです。そ、それで、その人は誰ですか?」


 なぜか、俺と同じく動揺しているように見えるアルナ。


「え? こいつ? 知らない人だぞ。名前も何も本当に知らない人」


「私はショータンと主従の印で結ばれた、愛の奴隷でーすっ!」


 突如背中に感じるボリューミーな二つの肉の感触。たまらねえッ!

 こいつ、下着着けてやがらねえな、ってそうじゃねえ!

 この胸は、さっきまでムキムキだった男の胸板だ!

 それよりもだ――――。


「ショータンて誰だよ! つうか離れろ! ついでに愛の奴隷とか気持ち悪いからやめろ!」


「だってぇ、もう私のご主人さまだし、自由に使ってくれていいんだよ?」


 こいつ、アルナの前だと、より饒舌になってるじゃねえか。

 既成事実化する魂胆だな。


「アルナ、こいつは俺とは全く関係ないからな」


「でも親しそうに見えますけど……」


「騙されるな! こいつは俺を堕落させようとしている魔族、夢魔だ!」


 腰に携えた剣の柄に手をかけるアルナ。

 もういっそのこと、狩ってもらったほうがいいかもしれん。


「ショータンヒドいよ。ショータンが呼び出して、主従の印まで結んだのに」


「そういえば、さっきも主従の印がどうのこうの言ってましたね」


 アルナは夢魔の主従の印を確認すると、柄から手を離してしまった。

 ヤバい、非常にヤバい。逆に俺が追い詰められる展開になっている。


「ショータさん、信用しないわけじゃないんですけど、その、説明してほしいです」


 そんなまっすぐな瞳で俺を見ないでくれ……そうだよ、そいつは悪くねえんだよ、良心の呵責で心が潰れそうだぜ……。



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