第4話 女勇者拾いました

 女勇者を選択し、頭上を見上げたが落ちてこなかった。

 まあ普通に考えて、落とし物が降ってくるのはおかしい。というわけで、町中に女勇者が落ちていないか探しまくった。


 きっとスタイル抜群の美女に違いない!

 間違っても俺の期待を裏切るんじゃねえぞ!

 だが、探せどどこにも美女は転がっていない。

 見つけたら、即、所有権を主張してやるのに!


 ――――待てよ、もしかしたら、既に宿のベッドに転がってるのかもしれない!

 というわけで、暗くなった狭い裏路地を走って帰っていると、何かにつまづき盛大にコケた。


「ん、んン……」


「人? その声は女!?」


 可愛らしい声がした暗闇の中を、目を凝らしてじっくりと確認してみた。

 そこには鎧を着た美女が……いや、美少女、いや、もっと幼い女の子がいた。年齢は10歳くらいか?


「まさか、女勇者ってのが、この女の子ってことはないよな? 勘弁してくれよ……」


 まあ違っていたとしても、こんなところに放置しておくわけにもいかないんだが。

 抱きかかえ宿に帰ると、案の定、ベッドに美女は転がっていなかった……やっぱりな!


「ンン……ウゥ……」


 うなされている少女をベッドに寝かせると、その顔がよくわかる。

 まだまだ幼いが、これは将来きっと美人になる顔だ。

 顔を覗き込んでいると、その瞼が持ち上がる。


「ん……え? ここは、あなたは誰ですか!?」


 起き上がると、俺から距離を取る少女。

 どうみても襲おうとしてたようにしか感じないよな……。


「俺は……ショータだ。キミの名前は?」


 そういや、この世界に来てから初めて名乗ったな。

 あの受付嬢、レナだったか、あいつも聞いてこなかったし、すげえいい加減な世界だな。


「わ、わたしはアルナ・ファースです。この前までプロイラード王国で勇者をしていたんですけど――――その、ポンコツだと言われて追放されてしまいました」


 なぜか身の上話まで始めたんだが?

 ポンコツかどうかはわからないが、年齢のこともあって頼りにはならない感じはするな。


「やっぱり勇者か……。路地裏で倒れてたから、連れて帰ってきたんだ。怪我もないようなら国に帰っていいぞ」


「わたしには、もう帰る場所がないんです……ん? この模様は」


 アルナは何かに気づいたように、自分の左手の甲を見つめる。

 そこには黒く墨が入ったような模様が浮き上がっている。


「これは主従の印! わたしは主従関係なんて許した覚えはないのに、誰が主に……」


 今度はアルナの目が俺の左手へと向けられる。

 そこには似たような印が浮き上がっていた。


「ショータさんがわたしの主になっています! 本来、お互いの同意がなければ結べないはずなのに……助けてもらったし、わたしはかまわないんですけど、その、ショータさんは主従関係は嫌ですか?」


 キラキラした目を向けてくるアルナ。

 捨て犬じゃねえんだから、そういう目を向けるんじゃねえ。

 手の印を見るに、拾ったものは俺のものってことで、人の場合は主従関係ができるってことか。


「俺は主従関係とかよくわからねえし、一人で食っていくのが精一杯だからな」


「食費なら自分で稼ぎます。全く問題ありません!」


「一つ確認しておきたいんだが、アルナは勇者だけどポンコツなのか? もしかして弱い?」


 ぶんぶんと首を横に振るアルナ。


「そこそこ強いですよ! でも、この前魔王討伐に失敗してしまったポンコツですから、ご期待には沿えないかも……」


「魔王って、もうファイナルステージじゃねえか。それでポンコツ扱いとか酷えな」


「そう言ってもらえると、とっても嬉しいです」


 ハニカミながら答えるアルナ。

 俺なんて、ゴブリン相手に吐きまくるレベルだからな。魔王城直前レベルとかメチャクチャ強ええよ。

 主従関係で狩りを代わりにやってもらえば、収集値が回復するかどうかも知っておきたいしな。


「わかった。だったら暫くここに置いてやるよ。帰りたくなったら、いつでも帰っていいからな」


「なりません! ありがとうございます、ショータさんっ!」


 アルナは元気よく返事をすると、シーツで顔を隠す。

 捨てられたあとで拾われて、相当嬉しいみたいだな。


「じゃあ今日は疲れてるだろうから、そのまま寝ていいぞ。俺はこっちのソファで寝るから」


 そう言うと、突如ベッドに立ち上がるアルナ。


「それはダメです! わたしは居候の身、ショータさんがベッドで寝るというのが筋です」


「そうは言ってもな、アルナは女の子だからな。女の子をソファで寝かせて、俺がベッドとか落ち着かねえわ」


 俺も鬼じゃない。

 完全に守備範囲外の女の子であろうと、ぞんざいには扱わない。


「だったら、一緒にベッドというのは……ダメですか?」


「俺にはそういう趣味はないんだが」


「趣味じゃないなら、安心して一緒に寝られますね!」


 というわけで、同じベッドで寝ることになった。

 少々狭いが、ただ横にいるだけだし、ベッドに子犬を入れているつもりで寝るとするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る