第3話 受付嬢の名は
町を出ると、あちこちを徘徊しているゴブリン。
何をしているのかというと、屈んで何かを拾っているようだ。
想像しなくても、まんま魔物版俺じゃねえか!
せっかく楽して生きていけるのかと思ったら、こんなことまでやらされるはめになっちまった。さっさと収集値を戻す方法を探らねえとな。
冒険者セットにあった剣をゴブリンの頭部目掛けて振り下ろすと、鈍い音とともに気持ちの悪い衝撃が両手に伝わる。
鮮血を撒き散らしながら動かなくなったゴブリンの左耳を削ぎ落とす。
「おぇぇええ゛え゛……ゲボボォぉぉ」
盛大に吐いちまったぜ。
アニメや漫画じゃ、異世界に来たら魔物をすぐに狩って平然としてる主人公ばかりだが、あんなの嘘っぱちだぞ。見た目も殺すのも全てが気持ち悪い。
その後も頑張って湧いてくるゴブリンの胴体を貫き、頭をかち割り、その都度吐いて、もう胃は空っぽだ。
朝から狩り続け、既に100匹くらいは狩っただろうか?
陽も傾き始めたため、町へ戻り冒険者ギルドを探すことにした。
まあ探すまでもなく、町の中心にあるデカい建物なため、すぐに見つかったが。
中へ入ると、様々な装備を着けた老若男女が仕事を求めて集まっていた。
もうここは異世界のハロワに他ならない。きっとブラックな仕事がいっぱいあることだろう。
受付の窓口には冒険者が列をなしており、その最後尾に並ぶ。そして、俺の番というところで、受付嬢は一旦奥へと下がった。
暫くすると、さっきとは違う受付嬢が出てきた。
「お待たせしました。狩りから戻ってくるのが早いですね」
「またお前かよ!」
「危うく転職が間に合わないところでした」
「別に間に合わなくてもいいだろ」
俺の目の前に現れたのは、異界管理事務局と職業紹介所で俺を担当した女だった。
「間に合わせないと、あなたをウォッチできないじゃないですか」
「事務局じゃ俺を追い出したくせに、新手のストーカーかよ」
受付嬢は口元を押さえてクスクスと笑うだけだ。
否定はしないんだな……。
「それで、ゴブリンの左耳は集まったのですか?」
「ああ、結構狩ってきたぞ。言ってたとおり、ゴブリンなんて魔物になった俺だったわ」
血が染み込み、色の変わった麻袋を受付台に置くと、躊躇なく袋の口を開け数え始める受付嬢。
有能じゃねえか……俺でもまだ若干引くってのに。
「99匹分ですね。では、報酬の2970ガルになります」
「一日頑張って2970ガルかよ……一匹30ガル……」
「ゴブリン狩りのベテランなら、その倍は稼ぎますよ」
倍としても、たかが6000ガルじゃねえか。
これじゃあ、安宿生活から抜け出せねえ……。
つうかゴブリン狩りのベテランてなんだよ、ダサすぎだろ。
「では、明日も頑張ってくださいね」
「あ、ああ――――ってそういや、名前はなんていうんだ?」
「はあ、私が有能だからって、落とそうとしてもダメですよ。ヒモにはしてあげませんから――――レナです」
「結局名乗るのかよ。誰も狙ってないから安心しろ。ゴミ漁りからヒモになるとか、どっちが上かわかんねえからな」
ハロワ、もとい冒険者ギルドをあとにし、暗くなり始めた町へ出た。
どこもかしこも、クリスマスのイルミネーションみたいにキラキラして見えやがる――――たった二日でどれだけ心が荒んじまったんだ。
そうだ、収集値の確認をしとかねえとな。
スキルブックを開き確認すると、そこには朝とは違う、回復した数字が見えた。
【収集値】
99pt(MAXまで1ptです)
「収集値99! お、おおおおおおおおおッッ!! 回復してんじゃねえか!」
――――待てよ、99? 回復したのが9、狩ったゴブリンが99。
まさか10匹で1回復したんじゃねえだろうな?
予想どおりなら、狩り生活やめられねえじゃねえかよ!
最悪だ、希望もへったくれもねえよ。
仕方ねえ……回復方法もわかったし、本日の一覧でも確認するか。
【本日の一覧】
干からびたパン一年分―――――消費収集値 13pt
勇者―――――――――――――消費収集値 99pt
女勇者――――――――――――消費収集値 90pt
干からびたパンが1pt値下げしてるのはなんだ?ってそんなこと今はどうでもいい。どうせ食えなくなった分か値下げに決まってる!
それよりも勇者だ勇者! そんなもんが拾えるのか!?
収集値も消費99とか半端ねえな……その下には女勇者まであって、こっちは90か。
――――収集値は大事だからな、なるべく少ないに越したことはない。
勇者と女勇者が同ptならよかったんだけどな!
ptが少ないほうが女勇者なんだから仕方ない。九も少ねえんだから!
逆なら、当然勇者を選択してたよ!
つうわけで、女勇者をポチッとな!
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