第4話 兄と妹

「最近お兄ちゃんの帰りが遅い。」

彼女は網田結衣。聡の妹であり、両親の転勤に振り回されてきた人物の一人である。転校を繰り返していく中で結衣にとって聡は両親を除いて唯一生まれてから今までずっと過ごしてきた貴重な人間でありとても慕っていた。そのため僅かなお兄ちゃんの変化にも気づいてしまうのである。

「ねーねーさとにぃ。最近いつもより帰りが遅いけど何かあったの?」

「あぁ。実は初恋の人と付き合えたんだ。」

「お兄ちゃん頭大丈夫?初恋の人は二個前の学校にいた人でしょ。この学校にいるわけないじゃん。」

妹は度重なる転校の影響でついにお兄ちゃんが幻覚を見るようになってしまったのではないかと一瞬心配になった。

「それがな、なんと二週間前に引っ越してきたらしく偶然同じクラスになったんだよ。」

「いや!初恋の人が転校してきて挙句の果てには同じクラスに!?!?それどんな確率よ!!さとにぃ私も付き添ってあげるから一緒に病院行こ。」

「だからほんとだってほら証拠もここにあるから」

そう言って僕は楓とのツーショット写真を妹に見せる。

「ホントダ...サトニィノイッテルコト、ウソジャナカッタ」

「んな、言っただろ。自分の信念を曲げないことはいいけどちゃんと事実は認めてくれよな。」

「むぅ。それじゃあさとにぃは、天文学的な確率で初恋の人と再開して両思いだったわけだ。なにそれ!ずーるーいーめっちゃロマンティックじゃん!!私もそういう出会いが欲しいんだけど。」

「自分でもいまだに信じられないよ。ん?なんで両思いだと思ったんだ?僕は一言も両思いだったなんて言ってないぞ?」

「えっ?だってこんなかわいい子にさとにぃが告白しても振られるに決まってるじゃん。」

妹からここまで鋭い言葉のナイフが飛んでくるとは思わなかった。

「そんなにズバッといわなくても...お兄ちゃん凹んじゃう。」

「ごめんってさとにぃ~。凹まないでぇ。」

「妹にいじめられたって楓に慰めてもらうからいいよ~だ」

「やっぱさとにぃ頭やった?ちょっと気持ち悪いよ。」

「そんな真面目な顔で言うなよ。冗談だよ冗談。」

「あっそうだ!私もその楓さんって人に会いたいから今度会わせて!」

「いいぞ。せっかくだし今週末楓の予定が空いてたら会うか」

「いいね!じゃああとは任せたさとにぃ。」

そう言い残し、嵐のように妹は去っていった。


「私だけのさとにぃだったのに。なんで急に現れるの?」

「また私、一人ぼっちになっちゃう。」

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