恋人を奪われパーティーを追放された親切おにいさん「あの時助けていただいた〇〇です」が揃って恩を返しに来て気付けば前パーティーを追い抜いてざまぁしていましたとさめでたしめでたし
第9話 親切おにいさんは領主さまのむすめと出会いましたとさ
第9話 親切おにいさんは領主さまのむすめと出会いましたとさ
ウソーが連れていかれ、領主とカイン、そして、従者たちだけになる。
「さて、カインよ。魔防布の術式織り込みご苦労であった」
「あ、りがとうございます。しかし、何故領主様が」
「お前の噂は、街で良く聞いている。善行に励む良い人間だとな」
「はあ」
カインは今までの出来事にどうしても現実味が持てず曖昧に頷くばかりであった。
「それに、ちと気になることもあってな」
「な、なんでしょう、」
と、聞き終わる前に部屋の前が騒がしい。誰かがやってきたようだ。
騒ぎの声がどんどん大きくなり、扉が勢いよく開かれる。
そこには、領主と同じ美しく輝く黄金の髪をふんわりおろした麗しい令嬢が息を弾ませながらこちらを見ていた。
「カイン様! お会いしとうございました! あの時助けていただいた娘です!」
言い終わるやいなやカインに抱きつき、頭をぐりぐりとこすりつけてくる。
麗しい令嬢のようにカインには見えたのだがどうやら違ったようだ。
言い方や所作の端々に洗練されたものを感じるが、今の様子は完全に小型犬か、幼子のそれであった。
「娘の、ルゥナだ……街中でガラの悪い連中に絡まれていた時に、君に助けられ、とてもとてもとてもやさしくしてくれたと聞いているよ」
背後のルマンが息をするのも苦しいほどのプレッシャーをかけながら、カインに話しかける。とてもやさしくと言われても、助けた際に緊張の糸が切れたのか泣き出したのを落ち着くまで頭を撫でてあげただけなのだ。それも、この、ルゥナが、そうして欲しいと言ってきたからカインはそうしてあげただけで……。
(ん? もしかして、今ルゥナが頭を擦り寄せているのは……)
背後に向けていた意識を目の前の令嬢に向けると、頭を差し出しじっとしている。
やらなければ離れないといった様子だ。
(少し、だけ……)
そっと頭を撫でてあげると、ルゥナは花が咲いたような笑顔を見せ……もう一度頭をぐりぐりしてきた。その後、ウソーに対してかけていた以上のプレッシャーがカインを襲った。
その後、ルゥナが追加報酬をあげるべきとルマンに食って掛かりかなりの金額の報酬を貰えることになったり(最初はルゥナは「報酬に私を!」とか言い出していた)、ルゥナが飛び込んできた扉の前で動向をうかがっていた使用人たちが現れ、一斉にカインに礼を言うなどの騒ぎが起きたが一先ず落ち着き、カインは宿に戻ることにした。
ルゥナがさりげなく腕を絡ませ、一緒に行こうとしたが、領主が泣き始めたので、また会う約束をし、一旦別れてもらった。それに、なんだかこの様子を誰かに見られていて、それを咎められているような気がしたのだ。
(まさかな……)
カインは自意識過剰だなと笑いながら領主の屋敷を後にした。
カインは気づいていなかった。自分の腰に付けている道具袋に〈盗聴〉の魔導具がつけられていることを。そして、その犯人は宿で自分を待つ美女であることを。
(ち、カイン様を誑かす女狐め)
宿で自らをツールと名乗った女は一人悪態を吐いていた。
正確には全くの無表情で、傍から見れば、そうは見えないのだが、頭の中ではルゥナの処刑方法でいっぱいだった。
(それに、カイン様もカイン様です。簡単に頭を撫でるなど……私にすればいいのに)
全くの無表情で、カインが自分にすべき様々な甘い行動を思い浮かべていた。
(さて、あの愚かな魔工技師はあれで終わりでしょう。他は、どうなっていることやら)
カインの道具袋に付いている〈盗聴〉の魔導具から、ギルドに付けているものへと切り替え耳を澄ませた。
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