恋人を奪われパーティーを追放された親切おにいさん「あの時助けていただいた〇〇です」が揃って恩を返しに来て気付けば前パーティーを追い抜いてざまぁしていましたとさめでたしめでたし
第7話 親切おにいさんは困っているおばあさんを助けてあげましたとさ
第7話 親切おにいさんは困っているおばあさんを助けてあげましたとさ
―― 時は少し遡る。
それは、領主の屋敷に向かっている時のことであった。
例によってカインは、困っているおばあさんを助けていた。
咄嗟の出来事であったし、こればかりはカインの性分だった。
「すまないねえ、こっちには来たばかりだったんだけど、あんたみたいに優しい人は始めてだよ。ありがとねえ」
おばあさんは、この街の名物である魔導列車の通り道でぼんやりしておりあやうく事故するところだった。誰かと待ち合わせをしていたらしく、その待ち合わせ場所にも心当たりがあったので、そこまで連れて行ってあげたのだ。
「よかったら、これをあげよう。あたしの趣味でつくっているもんだが」
おばあさんは願いの輪と呼ばれている組紐で出来たブレスレットをくれた。
「ありがとう」
「やさしいあなたに幸運が訪れますように。っと、ごめんねえ、どこかに行くところだったんだろう」
「ああ、うん! 今から急いで領主さまのところにいかなきゃいけなくて!」
「領主さまのところに?!」
その大きな声はおばあさんからではなく、カインの背後にいた、先ほど止めてしまった魔導列車の運転士があげたものだった。
「あ、あの、さっきは」
「なら、乗っていきなよ! カインさん!」
「へ? あの、あなたは」
「おいらはあの時助けてもらった運転士です! 丁度良く折り返しで向こう方面の魔導列車を運転してるんだ」
話を聞くと、以前魔導列車が運転士のミスで運転機関が故障しダイヤが大幅に遅れるかもしれないという出来事があった。カインは魔工技師としてこの街に来たからにはと魔導列車でギルドに向かうというプチ贅沢をしていた。(ちなみにこのチケットも実際は人助けをしたことでもらったモノであった)ギルドの最寄り駅に降りると、折り返し便の魔導列車で泣きながら平謝りをする運転士と、必死に
自分も魔工技師なので手伝います。とカインは名乗り出て即座に解決してしまった。術式不良はとにかく経験が物を言う。散々魔工技師仲間を助けてきたカインには大体の想像がついていたのだ。カインはさっさと直すと、その場を立ち去った。少しでも遅れてバリィ達の不興を買うわけにはいかなかったからだ。
その時の運転士が彼だったのだ。おばあさんとのあわや接触の時には、そのことで頭が一杯だったが、思い出すと、先ほどおばあさんを助けた彼はあの時の魔工技師だったのではと思い至った。
折り返し便に乗り、少しだけの停車時間に彼を探し続けた。そして、見つけたのだ。
あの時のお礼を言おうと。しかし、お礼は思わぬ形で返せることになったのだ。
魔導列車でそんな話を聞き、カインはほっとしていた。
(俺のことを良く思ってくれる人がほかにもいてくれたんだ)
しかし、ただほっとしているわけにもいかない。
魔導列車は領主の屋敷までは当然繋がっていない。
降りたら、また駆け出さねばならない。
びしょびしょの服の更にびしょびしょの袖で汗を拭いカインは息を整えていた。
もうすぐ着く。
すると、運転士は汽笛を鳴らし、外に大声を張り上げた。
「おおーい!みんな、おいらを助けてくれた親切なカインさんが領主さまのところに行きたいらしいんだ! 誰か手伝ってくれねえかあ!」
なんてことを言うんだ! 俺なんか助けてくれる人がいるわけないじゃないか!
しかも、そんな不特定多数に俺のことを言っても伝わるわけがないじゃないか!
と、カインは頭を抱えた。
ここを降りれば一斉に恥ずかしい視線を浴びながら、領主のところまで駆け抜けなきゃいけないのか。
出来るだけ、駆け足で行こう。そう気合を入れ、運転士に礼を言い、魔導列車を飛び出すと……
「カインさん! うちの馬車に乗って行ってくれ! あの時助けていただいた御者です!」
「カインさん!領主さまに会う服ならこれなんてどうだい? あの時助けていただいた服屋だよ!」
「カイン! おしゃれは足元からだ! これ履いてけ! あの時助けてもらった靴屋だよ!」
「カインちゃん! お腹すいてない!? これ馬車の中で食べな! あの時助けてもらったあのおばちゃんだよ!」
「かいんにーちゃん、これ、あげる。あのときたすけてもらったマーニャだよ」
「にゃーん」
カインの目の前には沢山の人が待ち構えていたのだ。
カインは予想外のその光景にまた汗を滝のようにかいていた。
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