1.3.11 水族館デート
今日は優奈と水族館デートだった。
結衣ちゃんとの夏祭りデートの埋め合わせである。
駅前で待ち合わせだった。
同棲しているのだから一緒に行けばいいではないかと思うかもしれないがそれだとデートの雰囲気が出ないので待ち合わせにした。
「だーれだ?」
突然、俺の目が誰かの手によって隠される。
もう慣れたのだがこんなことをする俺の知り合いは1人しかいない。
そうこの背中に当たる幸せで柔らかい感触は……。
「その声、優奈か?」
「ピンポン! ピンポン! ピンポーン!!」
今日も優奈は地雷系の服装をしていた。
ツインテールというのだろうか、そんな地雷系の髪型がよく似合っていた。
「その……なんだ……似合ってるぞ」
「え? 本当? 今日の私、かわいい? かわいい?」
「ああ、かわいいぞ」
「やったああ!!」
優奈は俺に褒められてそんなに嬉しいのか上機嫌だった。
それで俺たちは水族館に向かった。
まず水族館に入ると目の前に大水槽があった。
「うわー!! でっかいね。ジンベイザメ!!」
ジンベイザメは悠々と泳いでいた。
その近くにアジだろうか小魚の大群が泳いでいた。
「何でサメと小魚が一緒にいるんだろう?」
「え?」
「だってサメだったら小魚食べそうじゃん」
「エサあげてたら食べないんじゃないか?」
「ふーん。そうなのかな。……あっ、ここに説明があるよ。なになに『人喰いザメや凶暴といったイメージの強いジンベイザメですが主食はプランクトンです』だって」
「へー、そうなんだ。だから他の魚を食べずに共生できるんだな」
俺たちはじっくりジンベイザメやエイ、小魚を鑑賞したのち次のエリアに向かった。
「キャー、かわいい!!」
俺たちの目の前をペンギンがよちよち歩いていた。
優奈はさっきからスマホのカメラで連写していた。
ペンギンのお散歩だった。
「あ、説明がある。なになに『メスは卵を産むとヒナの餌を取りに、また1ヶ月かけて海に戻ります。その期間オスは卵を温めます。繁殖地に着くまで1ヶ月、卵を温めるのに2ヶ月、メスにヒナの世話を引き継ぎ海に辿りつくまでに1ヶ月、合計4ヶ月間何も食べずに子育てを行います』だって」
「へー、4ヶ月も!? 何も食べずに!?」
「私たちもこんな仲の良い夫婦になれたらいいね」
「いやいや、優奈は2番目の彼女だから。夫婦にはならないって」
「ぶー、コウ君がまた意地悪言う。そんなこと言うなら私泣いちゃうから。えーん」
明らかに嘘泣きだった。
「ほら、手繋いでやるから泣きやめよ」
「わーい。コウ君の手あったかーい」
俺たちは次にイルカショーを見に来た。
まずイルカがジャンプした。
イルカが飛び上がって空中にぶら下がったボールをくちばしでつついた。
「すごーい。高ーい」
次にトレーナーを背に乗せて水中を泳いでみせた。
「おお、すごいな、これは」
俺の口から感嘆の声が漏れる。
「今日のマナは元気がいいようだー!! 最後にみんなに水かけだー!!」
トレーナーさんがそう発言するとイルカが本当に水をかけてきた。
ブッシャァァァー。
俺たちは頭からつま先まで水に濡れてしまった。
「キャー、冷たーい!! あはは、びしょ濡れー」
水に濡れたことで優奈のブラが透けていた。
あわてて視線を逸らす。
「あー、コウ君、今、私のブラ見たでしょー。本当エッチなんだから」
「す、すまん、つい……」
このままだと目のやり場に困るのでちょうど売店に売っていたTシャツに着替えることにした。
次のエリアには魚とチンアナゴがいた。
「コウ君、あれやろう、さかなー」
優奈が片足立ちになり、その片足を後方に突き出し合わせた両手を前方に突き出しながら言った。
「チンアナゴー」
俺が反射的にそう答える。リコリス・リコイルの名セリフである。
「やっぱり魚とチンアナゴ見たらこれやらないと始まらないよね」
「そうだな」
最後に来たのがクラゲの水槽だった。ライトアップされたクラゲが浮かんでおり幻想的だった。
「うわー、ロマンチック!! 綺麗だね、コウ君!!」
「ああ、そうだな」
無邪気に笑うその横顔はクラゲ以上に美しい、そう思った。
「綺麗だ、優奈……」
しばらくして俺ははっとする。
結衣ちゃんという彼女がいるのにその言葉は浮気になるのではないか。
そう考えると俺の中に罪悪感が生まれてきた。
「えへへ、嬉しいよ、コウ君」
優奈はそんな俺の心中など察していないように無邪気に笑った。
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