1.3.4 彼女の妹

 俺たちは新幹線で2時間かけて東京に戻ってきた。


 移動中、疲れていたのだろうか、シルヴィアはずっと寝ていた。


 寝顔が可愛かった。


 あ、これは浮気とかじゃないからなあくまで兄妹の愛情表現だ。


 そんなこんなで自宅に戻る頃には辺りが暗くなっていた。


「おかえり、コウくん!!」


 家に帰るとそう言って優奈が抱きついてきた。


「はすはす。コウくん成分が足りないよー。はすはす」


「おい、臭いをかぐのはやめろっ優奈!! あと、離れろっ!!」


 こんなときいつもならシルヴィアも抱きついてケンカになるのだが今日は抱きついてこなかった。


 シルヴィアは少し元気がないようだ。


「シルヴィアちゃん、元気ないね。何かあったの?」


「いや、ちょっとな……」


 そう言って俺はお茶を濁す。


 そうして俺はリビングに入る。


「おかえり、光真君」


「ただいま、結衣ちゃん」


 そう言って俺たちはハグをする。


 本当はキスをしたかったが優奈とシルヴィアがいるので自重した。


 結衣ちゃんは料理を作っている途中だったのだろうか、エプロン姿だった。


 やっぱりエプロン姿の結衣ちゃんも可愛い。


「もうすぐでできるからね」


「分かった」


 10分後。料理ができた。カレーライスだった。


「このカレー美味しい!! ありがとね、結衣ちゃん。」


「えへへ、お粗末様です」


「……で、この帰省で何があったのか、言ってくれるかな、コウくん?」


「実は……」


 この2人に隠し事は無理なので包み隠さず全て話した。


 従兄妹に再会したこと、従兄妹に告白されたこと、告白を断ったら許嫁になったこと。


 親戚一同賛成していること。


「従兄妹……!? 許嫁……!?」


「また女!? また女が増えたの、コウくん!?」


「……夢じゃなかったんですね」


「シルヴィア?」


「あまりの出来事に気を失ってました。お兄ちゃんに許嫁なんて……」


「ああ、だから反対してくれなかったんだな」


 そうなのだ。シルヴィアが許嫁に反対しないのはおかしいと思ったのだ。


「でも、これはチャンスかもしれません」


「チャンス?」


「確かおじいさんは愛人ならいくらいてもいいと言ってましたね。なら、セフレの私や2番目の彼女の優奈さんにとっては好都合ですよね」


「確かにこれで正々堂々とコウくんとイチャつけるんだね!? でも私は1番目の彼女になりたいんだけど」


「ハーレム化計画です」


「え?」


「だからハーレム化計画です。これからハーレムを作りましょうね、お兄ちゃん?」


「何でそうなるんだよっ、誰が何と言おうと俺の正妻は結衣ちゃんだけだからな!!」


 8月下旬。俺は住宅街を歩いていた。


 家庭教師のアルバイト2件目だった。


 翼との家庭教師が好調だったので2件目の案件獲得になった。


「水原さん、水原さんの家はーー」


 水原さんって結衣ちゃんと同じ苗字だなーとぼんやり考えていたら目的地に着いた。


 ピンポーン。


 インターホンを鳴らす。


「はーい、どちら様でしょうか……って光真君!?」


「えっ結衣ちゃん!?」


 何と目的地は結衣ちゃんの実家だったのである。


 話によると今日は結衣ちゃんの妹、芽衣めいちゃんの家庭教師の初授業だったらしい。


 たまたま結衣ちゃんが実家に立ち寄ったということらしい。


「どんな奴が芽衣の家庭教師かと思って警戒してたけど光真君なら一安心かな」


 芽衣ちゃんの部屋に向かい芽衣ちゃんと出会った。初対面である。


 なんと芽衣ちゃんは中学時代の結衣ちゃんと瓜二つでメガネをかけショートカットだった。


 現在の結衣ちゃんはメガネではなくコンタクトレンズである。


 メガネをかけてても可愛いし、外しても可愛い。


 そう超可愛い。


 そんな女の子がもう1人現れたのである。


 要約するととても可愛かった。


「いきなりで悪いんだけどテストしてもらうから」


「はい、分かりました」


 動揺を隠すためにできるだけ平静を保った。


 それで1時間テストを受けてもらった。


 その後、面談に移った。


「それでどこの大学を目指してるか教えてくれるかな?」


「W大学です」


 即答だった。


「おー俺や結衣ちゃんと同じ大学だね」


「はい、先生と同じ大学に行きたいです」


 そこで沈黙が場を支配する。


「……先生、大事な話があるんですが」


「大事な話?」


「……ずっと好きでした。付き合ってください」


 え? え! ええーっ!! 好き? 俺のことが!?


 中学時代の結衣ちゃんに告白されたみたいで嬉しくなる。


「……ごめん、俺には好きな人がいるんだ。」


 俺には結衣ちゃんが、結衣ちゃんがいるからね。


「知ってます。あなたが見ていたのはずっとお姉ちゃんでした。私のことなんか眼中に無いくらい……」


 そう言って芽衣ちゃんは淋しそうな顔をする。


「芽衣ちゃん……」


 また、沈黙が場を支配する。


 できることなら芽衣ちゃんを今すぐ抱きしめたい。


 だが結衣ちゃんへの想いがそれを不可能にさせる。


「1つお願いがあるのですが……」


「お願い?」


「これからは先生ではなく兄さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「……ああ、いいよ」


 これが俺の示せる最大限の誠意だった。

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