K4.笑顔が輝く女の子

 今日は夏葉と燈が午後からは仕事があるのでいない。夏葉がいないことに少し残念そうにしていた店主は、今日は試作品のパフェを持ってきてくれた。気持ち程度のお代と神戸のとびきりの笑顔を返すと、少し嬉しそうにしてくれた。よかった。

 結局集まって最初にパフェを食べて、ようやく勉強会スタートという形になった。


「よっし。やろう、早くやろう!」

「神戸先輩、すごく気合いが入ってますね……!」

「そ、そうかな? えーそんなことないよー」


 見るからにやる気満々の神戸に、星島さんは若干戸惑った様子だ。理由は何となくわかってしまうけど、こんな明らかに浮ついた顔をされると正直めちゃくちゃ可愛いと思ってしまう。


「そ、そだユキせんせー……で、デートのこと、なんだけど……」

「でぇと」

「あ、ごめん違うよね! ごめんね!」

「いや、ごめん。デートかも。うん」


 デートかデートじゃないかはぶっちゃけどうでもいいけど、思ったより早くわかった。これ、俺と神戸の二人で海に行くやつだ。

 やばい。最近の男女の距離感がわからなすぎる。別に恋人とかいうわけでもなく普通に行くの? 俺が世間知らずなだけか神戸が近すぎるだけかわからない。


「で、でね? その、水着。一緒に買いに行かない? 今年まだ買いに行ってないからさー」

「毎年買うもんなんだ」

「あ、うーん、どだろ。わたしはちょっと動画撮りたいし」

「……なるほどね」


 小声でそんなことを伝えてきた。なるほど、そういうことか。やばかった、本気で誤解するところだった。

 誰か動画撮影を手伝ってほしいけど他の子は忙しいから頼ってくれただけだろう。俺も頼ってほしいとは常々言っているので、こうやって勉強以外のことで頼ってくれるのは嬉しい。


「でも俺その辺のセンスが……星島さんに聞いたらまあ、わかるかも」

「えっ」

「えっ? なにがですか?」

「服とかのセンス」

「えぇ? そんなことないですよ、素敵な服を選んでくれましたし。それに、神戸先輩はとっても綺麗なので仮にちょっと変なのになっても大丈夫な気がします」

「それは……確かに。何着ても似合いそうではある」


 綺麗な金髪に整ったスタイル。もちろん顔もかわいいし、普段の服もとても似合っていると思う。何を着ても似合いそうな雰囲気はある。ヘアスタイルもたまに変えたりしているけど、どれも似合っていてかわいいと思うし。

 なぜか急に不服そうにし始めた神戸は、星島さんの服に恨めしそうな視線を送っていた。


「服を買いに行くの? 明石、あんまりつべこべ言わずにそういうのは一緒に行ってあげた方がいいよ」

「綾川まで……まあ、行くけどさ」

「ほんと? 言ったよ!?」


 水着ってどこで買うんだろう。そういえば俺も水着はなかった気がするから買っておかないと。

 ……あとちょっとくらい筋トレしとこう。やっぱり少しくらい見栄を張りたい。


「よーし! じゃあ今日はめっちゃがんばらないと!」

「今度わたしとも遊んでくださいね、先輩」

「わかった。どこかで時間作ろう」


 神戸も星島さんも、こういうことを素直に言ってくれるようになった。やっぱり俺なんかといて楽しいのかな、と思ってしまうことも多いけど、俺のその言葉を素直に受け取れるように努力はしている。

 しばらく話して、やる気満々の神戸が始めるのに合わせて勉強会が始まった。


「順調?」

「そこそこ。俺はもう終わってるけど」

「へぇ。ほんとにすぐ終わったね。真面目だなぁ」

「まあ、早く終わるに越したことないかなって」


 早く終わらせすぎると残りの期間全く勉強しない、なんてわけにもいかないから結局どこかで勉強の時間は取っているけど、燈が家にいるときはしないようにしているから疎かになる日もないわけではない。だから本当は越したことはないなんてこともない気はするけど、まあその辺りはなんとなくどうにかしているから良しとしよう。

 やる気満々の神戸に影響されたのか、星島さんまで張り切っている。期末試験であれだけやれたのだから、宿題に関してわからないということはほとんどないはずだ。今日は俺のすることもそれほど多くないらしい。

 別の席で、たまに綾川と話しながら待つ時間。いつもは神戸が飽きてきた頃に話しかけてくるので、ほんの少し寂しい気分になる。人に関わるのが嫌だと言っているくせに、こうやって誰かと話すようになるといろいろと複雑な心境になる。


「ゆーきせーんせっ! だーれっだ!」

「……その呼び方、神戸しかしないから」

「そだね。もしわかんないって言われたらめっちゃショックだから保険かけちった! ごめん!」

「別にいいけど。どうかした?」

「今日と次と、その次の分で終わった。ぴーちゃんはちょとわかんないけど、順調そう」

「えっ、そんなに? じゃあもうほとんど終わってない?」

「だいたい終わったかも! 早めで終わったらユキせんせーとかみんなと遊びに行けるし」

「まあ、そうだね」


 そのみんなも忙しいし神戸もそこそこ忙しいわけだけど、もし予定が合って遊びに行けるときには行ってあげてほしいと思う。彼女の笑顔は、人を元気づける力があるように感じるから。


「て、ことで……ぴーちゃんが終わったらさ、水着。買いに行こ?」

「……わかったよ」


 そんなことを恥ずかしげもなく楽しそうに言う神戸に、俺はため息混じりにそう返し。

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