K3.陽キャの彼女と行くところ

 ぴこん、ぴこんという通知の音で目が覚めた。ロック画面には『ごめんなさい!』というメッセージに続いていくつものメッセージが送られてきていた。その主は神戸だ。


「なにこれ……?」


 神戸のLINKを開くと、二十件くらいのメッセージが送られてきていた。件数を見て、時間を見るとまだ朝の四時。神戸からのメッセージは三時頃からずっと送られていた。『ごめん嬉しくて』『返信迷ってたら寝落ちしてた!』というメッセージから五分後からメッセージが入り続けている。怒らせてしまったと思ったのか、途中からほとんど謝罪になっている。スマホに向かって慌てて誤っている神戸を想像したらなんだかかわいらしくて吹き出してしまった。

 既読がついたので俺がようやくメッセージを見たのがわかったようで、また『ごめんー!』と送ってきた。


『怒ってないから。ごめん、俺も寝てた』


 メッセージを返すと『よかったー!』『えーどこいく?』『やっぱ海じゃん?』『海だー!』『水着買いに行こ!』と連投された。海に決まっちゃったよ。えっ、待ってこれ神戸はみんなと行くつもりじゃね? 俺と二人で海はなくね?

 話の流れから掴もうとしてみるが、神戸はおそらくいつものテンションでメッセージを送ってくるだけで人数なんかの話はしようとしない。神戸の中では何人で行くか決まってるんだこれ。


「わっかんねぇ……」


 しばらく神戸にメッセージを返すと、突然ぴたりと連投が止まった。よく考えれば三時に目が覚めてしまっているわけで、となればまたもう一度寝てしまっても仕方ない。スマホ片手に寝落ちしている神戸を想像するとそれもまたかわいらしくて笑ってしまった。

 今日の勉強会でさりげなく聞いてみようか。俺にさりげなく聞けるコミュ力があるかは別として、また燈に怒られるようなミスは避けなければ。

 しばらくベッドでごろごろしてみたが眠れそうになかったので、残りの宿題を片付けておくことにした。

 例年より早いペースで宿題が終わったことに満足感。それでもまだ早い時間なので朝食の準備をすることにした。


「おっはよー! おはよー、おはよー! 紅葉もおはよー無視かいおまおい!」

「おはよう」

「おはよー、何作ってんのー?」

「見ての通り朝食」

「今日はご飯がいいな」

「了解」


 ハムエッグでも作ろう。テンションの高い燈は朝食の前に紅葉の散歩に行くらしい。紅葉の方はかなり嫌々だったが燈に引きずられるように着いて行った。

 散歩コースは俺と燈で若干違うことが最近わかった。燈のときは知らないけど俺と散歩に行くときは毎回決まった方に行くの、紅葉ってほんとに賢いんだな。いやちゃんと躾はしないと駄目なんだけど。

 ハムエッグを作ってキャベツを添える。そうして朝食の準備が終わったくらいで、燈が紅葉を連れて帰ってきた。


「はぁ……はぁ……つっかれだぁ……」

「お前が散歩されてんじゃん」

「うっさいなー」


 手を洗って戻ってきた燈は、珍しく俺の方に寄って来ずにダイニングチェアに座っていた。


「……もしかしてなんだけど、お兄ちゃんにまだ呆れてる?」

「なんのこと?」

「昨日の」

「ああ。お兄ちゃんがあんま空気読まないのは知ってるし、それくらいでお兄ちゃんのことなんかやだなー、とはならないよ。わたしは今日もブラコンだよ」

「よかった」

「シスコンめ。あ、でも。空気読まないといけないときはちゃんと合わせなよ。お兄ちゃんはやればできるんだし」

「それはわかってるよ」


 なんとなく、少しだけ距離を感じてしまった。燈が俺を嫌いになることはないとわかっていても、いつもと違うことをされると少し戸惑う。

 深く気にしたら俺がダメージを負いそうな気がしたのでやめておいた。朝食をテーブルに並べると、燈は自分の箸を取って黙々と朝食を食べ始めた。やっぱりなんか距離を感じる。


「ん……」


 気づけば八時。休日ならまだ寝ている日もあるような時間。ちらりとスマホを見たら、神戸からメッセージが入っていた。


『誘ってくれてありがとー』


 なんとなく神戸の喜んでいる顔が想像できた。俺も神戸に感謝しないといけないことはたくさんあるけど、それを伝えても神戸は困るだけだろうから『俺も楽しみだよ』とだけ返しておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る