30.信頼と距離感
「わっ……見てください先輩! これ、とってもかわいいです」
「そうだね。写真とか大丈夫?」
「そでした。あっ、その。先輩のも一緒に写していいですか? 先輩と来たっていう思い出にしたくて」
「それくらいは全然」
星島さんは少し大きめの、シールやらキーホルダーやらが付いたカメラでかわいらしいパフェとパンケーキを撮った。それからスマホで、今度は少し角度を変えて撮影した。
「なんで二回?」
「あ、こっちはSNS用に。あっ! だ、駄目でしたか……!?」
「顔とか名前とか出さないなら全然」
「出しません出しません絶対」
ナナホシの投稿も確認はしているが、それほど投稿頻度が多いわけでもなければ、大抵は商業写真の宣伝だ。四月までは二ヶ月に一度くらいの頻度で近況の投稿があったが、最近は『友人と見た景色のお裾分けです』だったり『友梨ちゃんとかわいいスイーツを食べに行きました』だったり少しずつ投稿が増えている。こういう形でも、かわいい後輩のことを知れるのは少し嬉しい。
しばらくすると写真が送られてきた。少し加工されているようで、テーブルの明るさなんかが少し違うように見える。どうやら後で投稿するらしい。
「では、いただきます」
「ん。いただきます」
パンケーキなんてあまり食べないが、せっかくなので頼んでみた。結果的に星島さんも笑顔になったので良しとしよう。
「あ」
「どうかしました?」
「食べる?」
「えっ」
燈だったら欲しがるだろうな、と思って聞いてみた。驚いたように手を振って「いいですいいです!」と言ってきたが、さっきから視線はパンケーキに向いている。
「ほんとに?」
「その、少し欲しいですけど……」
「遠慮しなくてもいいよ。俺は甘いものそんなに食べないから」
「えと、その、はい。わかりました、ありがとうございます」
渡そうと思って、フォークが俺のものしかないことに気づいた。若干申し訳ないと思いつつも店員さんを呼び止めると、星島さんはなぜか少しがっかりしたような顔をした。
結局俺はあまり食べずに星島さんに食べてもらって、会計を済ませて店を出た。慌てて財布を出そうとしていたが「先輩の奢りってことで」と言うと笑って譲ってくれた。
「さて、と……こっからなんも考えてないんだけど、星島さん行きたいところとかある?」
「えっ? えっと……特に。あ、じゃあ服を見てもいいですか? 先輩はその、褒めてくれるので」
「ん」
別に気の利いた褒め方はできていなかったと思うが、星島さんにとってはそれが嬉しかったらしい。やたらかわいいと言うのもよくないので褒め方は考えてみよう。
「この辺は星島さんの方が詳しいかな?」
「そう、ですね。一応は」
「じゃあ星島さんに任せる」
こくこくと頷くと、俺の腕に手を伸ばしてきた。
「案内しますね!」
手を引いて歩き出した星島さんは、さっきまでよりもずっと上機嫌だった。責めるつもりはなくても星島さんにとって俺の言葉は随分重いものになってしまうようなので、こうして楽しそうにしてくれるのはこっちも嬉しい。
正直なところ、俺なんかは何も特別なことはできないのだからもっと自信を持ってくれた方が助かるのだが、そう言っても難しいものはあるんだろうけど。
「先輩は……」
「ん?」
「……いえ、なんでもないです」
「なんでも言っていいのに」
「ほんとに大したことじゃないので、なんでもないです」
そういうのが一番気になるんだけどなぁ。そう思っても言及したいわけじゃないので、なんでもないことにしておいた。
アパレルショップに着いた俺たちは、とりあえず星島さんの服を見ることにした。こういうときは燈がいてほしいところだけど、生憎今日は夜まで仕事らしい。
「先輩、選んでもらってもいいですか?」
「えっ、俺が? センスないんだけど」
「そんなことないですよ。今日の服もとっても素敵です」
「これ、燈が見繕ってくれたやつだから」
この手のセンスは本当に皆無だ。多分その辺りは全部燈に吸われてしまっている。
それでも星島さんは俺に委ねたいらしく、何度か服を持ってきては「これ、どうでしょうか」と俺に選ばせてきた。
「さっきの方が星島さんには似合いそうかも」
「なるほどです」
あくまで個人的な感想に過ぎないが、その言葉を聞いて星島さんは嬉しそうにしてくれる。俺にはもったいないくらいの素直でかわいらしい後輩だ。
「……お」
そうやって店内を星島さんと歩いていると、色がとても星島さんに合いそうな服が目に入った。
「星島さん、これなんか……あっ」
「はい? …………えっと」
「ナシで」
「先輩は、露出多めが好きなんですか?」
「違う!」
俺が取ってしまったのは、ノースリーブのブラウス。過激な服では決してないけど、今日の服だってそんなに露出の多くない服を着ているのだから、きっと星島さんはそういう服はそんなに着たくないのだとわかる。そんな俺からの意味のわからない提案に、星島さんは恥ずかしそうにしながら首を傾げた。
「似合うと思ってくれたんですよね」
「いや、ちが……」
「別にいいと思います。女の子の腕とかが好きな男性も少なくないと思いますし……あと、先輩が選んでくれたのが嬉しいので」
結局それからブラウスを離すことなく、星島さんは数着服を選んで満足そうに店を出た。
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