27.思い出の記録たち
『おはよ! シオリだよー。えー今回は久しぶりの動画だけど、みんな見てくれてありがとー』
「あっ、あっ、これ別撮りのやつ! さっき撮ってたとこまで飛ばすね!」
俺はちょっと見たかったが神戸は少し慌てているように見えたので止めなかった。おそらく恥ずかしいのだろう。
一分ほど動画をスキップすると、見知った場所が映っていた。ちょっと待て。
『こっちの大柄の人が店主さん! めっちゃ怖そうだけど、めっちゃいい人だよ!』
『怖そう、だぁ?』
『わわっ、怒らないでくださーい!』
「えっ!?」
神戸の動画を見て燈は声をあげた。どうやら燈も動画の内容までは聞かされていなかったらしい。
神戸の動画に映っていたのは、俺と燈と夏葉にとっては思い出のたい焼き屋だ。星島さんも気に入ってくれた、みんなに人気のたい焼き屋。そんなことは知らない神戸は、声をあげた燈の方を見て首を傾げた。
「あ、いや……なんでもないです」
「この駅の近くのたい焼きすっごく美味しくて! どーしても紹介したくてさー。最初は絶対に嫌だーって言われてたんだけど、何回も行ってたらうるさいから紹介させてやるって!」
「そうなんですね」
燈はどこか不服そうな顔で返事をして、再び神戸のスマホに目を落とした。
以前、番組で取り上げさせてもらえないかという話をしたことがある。そのときに燈はどうしても紹介したいと言ったが、何度頼んでも「ここは燈ちゃんと優希の思い出でいいんだよ」と言って受けてはくれなかった。それなのに神戸の動画には出るから複雑な心境なのだろう。
しばらく店主とのやり取りが続いて、画面が切り替わった。たい焼き屋からは少し離れた場所にある、小さな公園だ。そこから少し進むと俺が働いているコンビニがある。
動画の中の神戸はたい焼きを食べてかなり詳しく感想を言って、最後にまた画面が切り替わった。
「あ、ここ使い回しだからいいや」
「使い回し?」
「登録してーっていうのと、高評価してーっていうやつ。家で撮影する動画だったらそのまま言うんだけど、外で撮ったやつだとなんかいい感じにならなくて。めんどくさくなっちゃって使い回してるんだ」
そう言って神戸はスマホを鞄にしまった。
「どうかな?」
「うん……正直なこと言っていい?」
「えっ。えっ、ちょっと待って! なんかユキせんせー優しいから勝手に褒めてくれると思ってた! 指摘怖い! えーっ! 心の準備できてない!」
「いや指摘とかしないけど。俺そういうのわかんないし」
「えっ? えっと……じゃあ、正直なことって?」
「シオリってなんか、もっと映えとか意識してるんだと思ってた」
「あー、それよく言われるー! てゆーか高校入ったばっかのときはそういうのばっかだった!」
気を悪くさせてしまうかと思ったが、神戸は笑って話してくれた。
「みんなから求められてるのは、多分そういうのなんだと思う。でも、シオリはわたしの思い出みたいなものだから。そこにわたしの大切なものを加えていきたいなって」
「そっか……神戸の大切なものが、この動画なんだな」
「うんっ! あ、ユキせんせーも出てやってもいいぞーってなったら言ってね!」
「多分ないけど、考えとく」
その神戸の大切な思い出の中に入れてもらえるのなら、それも悪くないかもしれない。でもやっぱり動画なんて柄じゃないか。
「優希の代わりに今度わたしと夏葉が出ますよ!」
「えっ、えっ、えー! えっ、ほんと!?」
「まだ事務所に許可取ってないんでアレですけど、どうにかして」
「えーっ! えっ、すっごい嬉しい!」
ぎゅう、と神戸に抱きつかれた燈は、少し恥ずかしそうに笑った。
「その話はまた後日な。とりあえず、神戸はそろそろ帰ろうか。暗くなる」
「あ、うんっ!」
「歩けるか?」
「大丈夫!」
少し遅くなってしまったので、せめて駅までは送って行くことにした。神戸は「別にいいのにー」と言っていたが、俺が心配だからと言うと笑って頷いてくれた。
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