26.おしゃれ女子と映え動画

「いやー良かったね!」

「だな」


 結局、交番で両親は見つかった。これから探しに出るところだったらしい。しきりに礼を言われたが、ほとんどは神戸がしてくれたことなので神戸が良ければ俺は何も言うことがなかった。


「もーユキせんせー賢いのになんであんなこと言っちゃうかなー。子ども相手だよー」

「ごめん」

「いや怒ってないよ! 正直ああいうの同い歳の男子相手とかに言ってくれてたらめっちゃキュンてしてた!」

「子ども相手に大人げなかったなって思ってる」

「……うん。でもさ、やっぱり嬉しかったよ? わたしのことかわいいって言ってくれて」


 神戸なら日頃からそういうことを言われていそうなものだが、そういうわけではないのかもしれない。それに、神戸のかわいいは元々の顔立ちなんかはもちろん、普段の生活から気を遣っていることはシオリの配信で何度も言っていたから知っている。


「つか、おぶる」

「えっ……えっ!?」

「足」

「あ、えっ、えっ……えっ、ユキせんせーってそういうの普通にできちゃう人なんだ……」

「あ、ごめん嫌だったな!?」

「違う違う! むしろわたしこそ、ユキせんせーそういうの絶対しないって勝手に思っててごめん!」


 女性との関わり方がいまいちわからない。そもそも燈や夏葉、後はせいぜい楓さんくらいなものなので距離感に気を回すこともなかった。

 とはいえ神戸は足を痛めてしまっているので俺だけ歩いて行ってしまうのも嫌だ。そう思ってどうしようかと思っていると、神戸は俺の背にぴったりと引っ付いてきた。


「ん。駅行けばいい?」

「あ、ううん、ユキせんせーの家」

「……俺の?」

「実は、ともりんに頼んでて」

「ともりん」


 友梨の古参ファンはそう呼んでいる人もいる。でも基本的には友梨ちゃんという呼び方が普通だ。それはただの明石燈でも同じで、燈ちゃんと呼ばれることが多い。


「あ、なんか燈ちゃんって遠いなーって思って。勝手にともりんとかなっちゃんって呼んでるんだ」

「へぇ。いいと思う」

「だよね! 呼び方って大事だと思う! もーユキせんせー共感してくれるからすっごく話しやすい!」


 このユキせんせーも一種のあだ名なのかと思うとやめろと言いづらい。一応友人の前では避けてくれてはいるようだが、ふとしたときに出てしまっている。


「で、なんで俺の家?」

「あ、そだった。今日ちょっとシオリの動画撮ってて、でも着替えるために帰るのもちょっとめんどーだなーって思ってたらともりんがうちに置いててもいいですよって言ってくれて。だからわたしの制服とか靴とかユキせんせーの家にあるんだよね」

「そういう。なるほどね」


 学校から近いのが役に立ったらしい。今度シオリの動画をチェックしておこう。

 一応神戸のこんな姿を神戸の友人たちに見られるわけにはいかないはずなので、少しだけ回り道をすることにした。駅と学校の反対側に迂回するので少しだけ時間がかかってしまうが、変な誤解をされるよりはマシだろう。


「え、と……こっちで合ってる?」

「ちょっと遠回りだけど。急ぐ?」

「えっ!? えっ、えっ、いや……急がない、けど。その、えー? な、なにー?」

「どうした?」


 急に口調がおかしくなった神戸は、俺の首に回している腕の力を少しだけ強くした。


「ユキせんせー、わたしと一緒にいたいの?」

「ん? いやまあ……ああ、ごめん。そういうことじゃない。むしろ、こういうところを友達に見られると困るかと思って」

「……あー、うん! そうかも! すーぐ好きだのなんだのーって言ってくるし!」


 神戸が俺を何とも思っていないのはわかっているが、そういう話はあまり好きでもない。もちろん神戸のことは嫌いでもないので、こうして話している時間は嫌なはずもないのだけど、そんなことは恥ずかしくてとても言えない。

 それにしても、この辺りは特に何もないがいったいどこで動画なんて撮っていたのだろうか。俺が知らないだけで、話題の場所があるのかもしれない。


「ユキせんせーはすごいよね」

「どこが。ああ、勉強のことなら自己満足だし……」

「違うよ。今、わたしのこと考えてくれてたんでしょ。なんかそんな感じした。そういうところ、ほんとすごいなって」

「それこそどこが。神戸だっていつも人のこと考えてるだろ」

「それはそーなんだけど! でも、ユキせんせーは人と関わるのめっちゃ嫌って感じ出してるじゃん。それなのに、わたしとか星島さんのことすっごい考えてて。ほんと、優しい」

「……そんなことない」


 頼まれたからやっていると言える時間は終わっている。これは俺がしたいからしているのだと、俺はちゃんとわかっているつもりだ。それでもそれを口に出せないのは、やっぱり心のどこかで神戸たちのことを違う世界にいると思ってしまっているのだろう。

 それから神戸は俺に話しかけてくることはなく、しばらく歩いて自宅にたどり着いた。


「ありがと、さすがにともりんに見られるのちょっと恥ずかしいから降りるね」

「ん」


 神戸をそっと立たせて家のドアを開ける。燈は既に夕飯の支度をしているらしい。


「おっ、おにい……あっ、神戸先輩! 優希と一緒だったんですね」

「ただいま」

「おかえりっ!」


 こっそり「なんかあった?」と聞きに来たので軽く事情を説明すると嬉しそうに笑った。


「神戸先輩らしいですね。あ、足大丈夫ですか?」

「うん! ユキせんせーがおんぶしてくれたし!」

「おまっ……」

「へぇー? へえぇぇ?」

「うっざ」

「ひどいっ!?」


 泣きつく燈を受け止めて、神戸は優しい笑みを浮かべた。普段の明るい笑顔も魅力的だと思うが、神戸がこういう顔をするのが少し意外だった。


「そ、そういや今日はどんな動画撮ったんだ?」

「うん? 見る?」

「えっ。いいの?」

「編集前だし!」


 そう言って神戸は、嬉々として俺と燈にスマホの画面を見せてくれた。

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