第6話 不審者が2人いる
「水瀬さん、ワイヤレスイヤホンを持っていたら、耳に付けて貰えますか?」
藍子という名の女子高生を尾行している蓮に、真乃から指示が飛んでくる。
蓮はポケットに入れてあるワイヤレスイヤホンのケースを取り出すと、片方だけ取り出して耳に装着して、スマホと同期させた。
「真乃ちゃん、聞こえる?言われた通りにしたよ」
「聞こえます。本当に御迷惑をおかけしてすいません」
「いや、まだ迷惑じゃないけれど、これから迷惑をかけられるんでしょ?」
「はい、本当にすいません」
「まあ、いいよ。とりあえず、藍子ちゃんから5メートルほど後ろを歩いているから、何かあったらすぐに教えて」
「はい」
前を歩く藍子のポニーテールが馬の尻尾のように揺れている。女子高生のあとをつけるなんて、これでは俺が不審者だ。愚痴りたいが真乃と通話中なので余計なことは言えない。
50メートルほど続くアーケード街は活気に溢れていた。コロッケの良い匂いがする。誰が買うのかと疑いたくなるライオンの絵が大きく描かれた服を店頭に置いている婦人服店があり、全国展開をしているラーメン屋もあった。
「へえ、結構賑わっているんだね」
「そうみたいですね。それよりも、もうすぐです。水瀬さんの右前方に古本屋さんがあるのがわかりますか?
あまり目がよくない蓮は目を細めた。ある、古本屋かどうかまではわからないが、確かに本屋がある。
「ねえ、真乃ちゃん。ほとんど打ち合わせ無しなんだけど、俺は彼氏のフリをすればいいんだよね?」
「そうです。できれば仲の良い恋人同士に見えるようにしてください」
「随分と難しい注文をするね」
「ごめんなさい。わかってはいるんですけれど、今はそういうしかないんです」
「了解。努力はしてみる」
蓮と真乃の会話の途中で藍子のポニーテールの動きが止まる。よく見るとブレザーを来た男子高校生が藍子の前に立ちはだかっていた。
「やばい、やばい」ただならない様子の男子高生を見た蓮は、駆け足で藍子に近づき、「ど、どうした、藍子?」と震えそうな声を出した。
「え?」藍子は明らかに困惑していた。見知らぬ男が呼び捨てで近づいてきたのだから無理もないだろう。
「おい、おっさん!お前、誰なんだよ!」
「お、おっさん?俺が?」蓮はまだ22歳。髪の毛は少しだけ茶色に染めてセンターわけ。服装は春物のカーディガンを羽織り、七分丈のショートパンツに流行りのスニーカーといういでたちをしている。それなのに、おっさん呼ばわりされた。
「おっさんは酷くないか?俺はまだ22歳なんだけど」
「やっぱり、おっさんじゃねえか。大体、お前は藍子の何なんだよ?」
「お、俺は藍子の彼氏だ」声が震える。なにかとんでもないことをしでかしている気がしてならない。
「藍子の彼氏は俺だ!なんなんだ、てめえは!」威嚇してくる男子高校生は至って普通に見えた。言葉遣いは悪いが、どこにでいる普通の高校生だ。
「え?あ、あの・・・」いきなり彼氏を名乗る男が2人が現れて、恐怖を感じたのか、藍子が後退りをした。蓮は藍子の腕を掴み、耳元で「俺は真乃ちゃん、柊木真乃ちゃんの知り合いだから」と小声で呟いた。
「はあ、そうなんですか・・・」
真乃の名前を出したところで、藍子にこの状況が理解できるわけがない。藍子は戸惑いながら、待ち構えていた男子高校生と蓮を交互に見た。どちらも藍子にとっては招かざる客だろう。しかし、蓮にはこうしなければいけない理由がある。
「お前、本当に誰なんだよ!」
「だから、彼氏なんだって!」
さあ、迷惑をかけられるときがきた。蓮は藍子の庇うように自分の後ろに移動させて、おっさん呼ばわりした男子高校生と対峙した。
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