CASE 真乃の大切な友達
第5話 スタンバイ
蓮と真乃が秘密の約束を交わした翌日。蓮は授業にでるために電車に揺られていた。
真乃とは家が近いが互いの連絡先を交換した。
真乃と関わりと持てたことは嬉しいが何か違う気がする。それに真乃のことを誰にも話せない。嘘つき呼ばわりされるのが嫌なのか、それとも変な子と思われたくないのか、真乃は絶対に話さないで欲しいと念押しをした。
これでは世間話で電話やメッセージを送ることができない。蓮は予想外の出来事に困惑したが、大学で友人に出会っても真乃の話をしなかった。
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蓮と真乃が出会って1週間が経過した。真乃から連絡はこない。
蓮は起きて歯を磨くと、いつものように外でストレッチを始めた。
真乃の部屋の窓はシャッターこそ空いているが、窓は閉められて白いカーテンが室内を見えないように覆い隠していた。
1、2、3、4、屈伸を始めると、カラカラと音が鳴った。
真乃が珍しく窓を開けたようだ。気にはなるが、蓮は敢えて気にならないフリをしていた。
「ちょっと、ちょっと、水瀬さん」小声だが真乃の呼ぶ声が聞こえる。窓に目を送ると、制服姿の真乃が手招きしていた。
「おはよう、どうしたの?」久しぶりに真乃を見た蓮は顔を綻ばせて真乃に向かって歩いていった。やはり可愛い。磁石のように引き寄せられてしまう。
「ちょっといいですか?」朝だからなのか、それとも話を聞かれたくないのかはわからないが、真乃は蓮が近づいても小声のままだった。
「いいけど、ここで?」
「はい、すぐに済みますから」
「水瀬さん、明日の夕方、えーと、できることなら4時頃に会うことができますか?」
「それってデートの約束?」
「違います!私と約束したじゃないですか、そのことです」
「ああ、そっちのことなんだ」
蓮は分かり易く肩を落とした。要するに真乃の手伝いをしろということか。
「お願いします。水瀬さんにどうしてもお手伝いをして頂きたいんです」
可愛い真乃にこうお願いされては断ることができない。
「わかった。4時にどのあたりに行けばいいの?」
「私の学校がここから5駅離れた場所にあるんですけど、できればそこに現地集合でお願いしたいんですけれど」
「えーと、真乃ちゃんの学校って池袋方面だっけ?」
「はい、そうです」
「それなら帰る途中で降りればいいわけか・・・」蓮は明日の授業を思い出す。午前中の1限と2限は授業がある。あとは確か4限に会ったような気がするのだが。
ただ、4限に出席をすると、4時に真乃と会うのは不可能だ。
「本当は授業があるんだけど、誰かに代返を頼むよ」
「本当にありがとうございます。明日、詳しいことを説明します。それでは」
真乃はそう言うと、窓を閉めてしまった。
この真乃の言動を誰かに話したい、相談したい。でもそれはできない。おまけに授業に出席できなくなった。
「約束だから仕方ないか・・・」蓮は自分に言い聞かせるように呟くと、急いで学校に行く準備をした。
✦
真乃と待ち合わせた駅は高校があるということもあり、沢山の学生で溢れかえっていた。
プルル、プルル、蓮のスマホが鳴る。
「水瀬さん、東口の階段ってわかりますか?そこで落ち合いたいんですけど」
「えーと、ちょっと待ってね、東口の階段、東口の階段・・・ああ、わかった」
「待っていますから」
真乃と通話を終えると、蓮は人混みをかき分けて反対側へ向かうと「水瀬さん、こっちです」と階段の手前で真乃が中腰で手招きしているのに気が付いた。
「どうしたの、そんな恰好をして」
グイ、グイ「とりあえずしゃがんでください」真乃に手を取られ、蓮は真乃と同じように屈んだ。
「これって探偵かなんかの真似事?」
「水瀬さん、真剣にお願いします」真乃は蓮の物言いに腹を立てたようだ。怖い顔で睨みつけている。
「真乃ちゃん、可愛い顔が台無しだよ」
「それよりも、聞いてください。今、階段を下り切った女の子が見えますか?ポニーテールで青いスポーツバッグを肩にかけている女の子です。
真乃は顔をあげていないのに正確な位置を把握しているし、服装も真乃の言う通りだった。
「あの子は、藍子ちゃんっていうんですけど、あの子を助けて欲しいんです」
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「助けるってどうやって?」
「階段を下りた先で50メートル進むと右側に本屋さんがあるんですけど、そこに藍子ちゃんにしつこく言い寄る男がいるんです。その男をどうにかしないと藍子ちゃんが怪我をしちゃんです」
「えーと、具体的に俺はどうすればいいの?」怪我を負うとは物騒な話だ。しかし、蓮の役割の検討がつかない。
「藍子ちゃんは引っ越ししてきたばかりの私に優しくしてくれた大切な友達なんです。でも私が持っている力のことをどうして話すことができなくて。だから水瀬さんが近づいて、藍子の彼氏を演じてもらえませんか?」
蓮には大学入試よりも難しい問題を突き付けられた気がした。
「俺だって、藍子ちゃんだっけ?彼女とは初対面だよ?それなのにいきなり彼氏の真似をするって無理がない?このことを向こうは知らないんでしょ?」
「ああ、そんなことを言っている場合じゃないです。水瀬さん、急いでください。早く、早く、藍子ちゃんに追いついてください」
真乃に背を押され、蓮は仕方なく藍子の後を追い階段を下りる。真乃は「急いで!」というゼスチャーを繰り返しているだけ動こうとしていない。。
「俺が捕まったら恨むよ、真乃ちゃん」蓮は恨み節を言いながら藍子の後を急いで追いかけた。
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