第4話 どうしてそうなるの?
「蓮、どうしたの?もう授業は終わったの」
「いや、今、家にいる」蓮は右手にスマホを持ち、左手で戻ってきた財布を大事に抱えていた。
「はあ?あんた馬鹿なの?まさか、学校まで行ってそのまま帰ったの?」
「違う・・・じゃないな、確かにそのまま帰ったけど、梨沙にちょっと聞いて欲しいことがあって」
蓮は財布を落としたこと。警察に届けたこと、探しながら帰ったことなどを話し、最後に、実は向かいの女子高生が拾って届けてくれたことを話した。
「財布を落とすなんて弛んでいる証拠だよ!でも見つかって良かったね」
「ああ、でも、さっきも言った通り、お金に気をつけてくださいなんて予言めいたこと言った女子高生が拾うなんて、なんか上手くいきすぎているというか、うーん」
「犯人のわけはないか・・・わざわざ返しにくるわけないもんね」
「梨沙はどう思う?」
「あんたは昔から人に聞いてばかりなんだから、少しは自分で考えなよ。でもお返しはしたほうがいいよ。ご近所さんなんだし」
✦
蓮はコンビニで売っている菓子の詰め合わせを買い、梨沙の言う通り、真乃にお礼として渡すことにした。菓子の詰め合わせは2000円もしたが、財布が見つからなかったら2000円では済まなかったはずだ。駅前のコンビニから自宅に帰るルートを歩き、自宅の目と鼻の先にある真乃の家の前で歩を止める。
ピンポーン。チャイムを鳴らすと「どなたですか?」という真乃の明らかに警戒している声が聞こえてきた。
「えーと、水瀬です。向かいの家の、財布を拾ってもらった、あの水瀬です」
蓮はしどろもどろになりながらインターホンに向かって話し掛けた。
「ちょっと待ってください」
その言葉の数秒後、真乃が玄関から顔を現した。グレーのパーカーにスキニージーンズを穿いた真乃は制服とは違うが、やはり可愛いかった。
「あの、財布を拾ってくれたお礼を持ってきたんだけど」蓮はラッピングされたお菓子の箱を高々と持ち上げてみせた。
「別にそういうのは良かったんですけど・・・」
真乃が玄関を離れ、ゆっくりと蓮に近づいてくる。
「とにかく、これを受け取って」蓮は有名人にサインを求めるようにお菓子の箱を突き出した。
「それじゃ、有り難く頂きます」
蓮からお菓子の詰め合わせを受け取った真乃は、すぐに家に入ろうとして、急に足を止めて振り返った。
「水瀬さん、私のことを誰かに話しましたか?」
「ああ、ええと1人だけ。でも1人だけだよ」
「ちょっと来てください」真乃は蓮の腕を掴むと強引に引っ張った。
「どうしたの?」
「とりあえず、家の中へ入ってください」
「え、でもご両親もいるんじゃないの?」
「2人とも帰ってくるのは遅いので、今は私しかいません」
「へえ」蓮の頭の中では、可愛い女子高生が1人でいて、その家に招きいれられたという都合の良い解釈でドキドキしていた。
「引っ越してきたばっかりなので、全然片付いていないですけど、適当に座ってください」
確かに封を空けていない段ボールだらけだ。おそらくはリビングであろうが、テレビも置いていない部屋のソファーに蓮は腰を降ろした。
「単刀直入に言います。水瀬さん、私のことは他の人に話さないでください」
「どうして?」
「ともかく、話されると困るんです」真乃は挙動不審かと思えば、急に強気になる。おそらく未来予知関係になると人が変わるのだろう。
「水瀬さん、あなたが私のことを信じようが信じまいが、私の手伝いをお願いするかもしれません。他の人に話していなければこんなことをお願いしなかったんですけれど」
「手伝いって何?どうして?」
「色々あるんです。それは、おいおい説明します」
「でも、俺は留年をしたから勉強を頑張らないとまた留年しちゃうし」
可愛い女子高生と仲良くなれるのは有り難いが、それ以上に進学できるかどうかのほうが蓮には重要だった。
「たまにでいいですから」
「うーん、そこまで言われると断れないな」真乃の懇願する顔を見ると、蓮は無下に断ることができず、よくわからないまま了承した。
「ありがとうございます。あと、しつこいようですが私の、私の力のことは他言無用でお願いします」
私の力ねえ・・・蓮にはどうにもピンとこなかった。近所に超能力者がいて、しかもそれが可愛い女子高生なんて信じなれない。
「疑うのも当然だと思います」真乃は悲しそうな顔で深い溜め息を吐いた。
「えーと、疑っているわけじゃないんだけれど」蓮はそこで言葉を止めた。これ以上余計なことを言うと、真乃を傷つけてしまいそうで怖かった。
「あのさ、俺はこれから真乃ちゃんって呼んでも良いかな?」
「はい。構いません」
「じゃあ、俺のことは蓮と呼んで構わないよ」
「水瀬さんとお呼びします」真乃は蓮の提案をキッパリと断った。
「ああ、そう・・・」蓮は苦笑いを浮かべ、バツが悪そうに髪の毛を掻いた。
蓮と真乃。2人に不思議な協力関係が結ばれたのは、蓮が財布を落とした日のことだった。
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