【081】己は何者だ、何ゆえこの時代で戦う――?

 江戸時代へのタイムスリップもの。と書いたのは便宜上のことであり、本作の主人公が本当に未来からのタイムリーパーなのかは、未だ作中で明かされていない。令和の記憶を持ち、江戸の若侍として突如目覚めた彼が、ヒロイン達の協力を得て己の正体を推理していく過程こそが、現時点における本作のストーリーの中核をなしているのだ。

 そんな主人公の一人称で繰り広げられる話運びは、軽妙かつ明快で、さらさらと読み進めていけるスピード感を備えている。不可思議な目覚めから現状把握、謎解きへの乗り出しと、テンポよく進む物語が楽しく、どこの誰かも分からない彼に読者は気付けば感情移入している。これは、ひとえに読者への配慮が行き届いた文章や、物語を脇から彩る豊富な時代考証の為せる業だろう。

 未だ己の正体を知らず、己の剣の腕についても知らず、実際に刀を振るってもいない主人公。だが、己の出自の謎を追って奔走する中で、少しずつ戦いの気配が彼の背後に忍び寄ってきた感がある。この後の展開では、いよいよ血湧き肉躍る斬り合いが待ち受けていることは予想に難くない。手に汗握る気持ちで続きの更新を待ちたい。


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