第二章 たいりょく!
第1話 作戦会議
ショーコ「はぁ⁉ おりえん??」15:55
既読15:55「そ、なんかやることになった」
ショーコ「ところでオリエンテーリングって何?」16:00
既読16:01「地図とコンパス片手に山を駆けまわる知的なスポーツです」
ショーコ「なんでまた?」16:03
既読16:04「運命……かな」
ショーコ「…………」16:04
既読16:05「なんか反応プリーズ」
ショーコ「ま、がんばれ」16:06
既読16:08「うん、今から部活行ってくるわ!」
◇◇◇
東京にいる我が友とのスマホ上の会話を終わらせ、スマホはかばんのポケットに。いざ倉庫もとい部室へ向かう。
昨日、初めて山に登った。そして帰宅するとほどよき筋肉痛と空腹に襲われた。いまだかつてない食欲でもって夕飯を平らげ、ごはんをおかわりした。そして夜の一〇時には布団に入り、朝の六時に超気持ちよく起床した。
やばい。スゲー健康になってる……。
朝一思ったことがそれだった。母親の作るご飯がこんなにおいしく感じられるなんて、こんなに気持ちよく八時間睡眠できるなんて、帰宅部の時には想像し得なかったことだ。
脚の筋肉は少しつっぱっていたが、苦痛に感じるほどではなかった。運動して飯を食って寝る。筋肉に負荷をかけ、休ませる。そして強くなる。動物の身体の当たり前の仕組みをいまさら実感する。
そんなわけで、割と気分よく、部室の扉を開けた。
「おう、待ってたで。
「こんにちは、天ちゃん」
「こんにちは、山川さん」
二年生ズは教室が近いということもあって、すでに集合している。右から順に、ショートカットイケメン女子の
先輩たちは昼休みに一年生の教室廊下を練り歩いて勧誘活動を行っているが、あたし以外の新入生はこの部室を訪れない。楠木高校は部員四名から部活動として認められるというから、部の存続はかなりギリギリのところだ。マイナークラブにとっては毎年の悩みの種らしいが。
先のことを考えなければ、あたしは今の方が気楽で良い。元より大阪に友達はいないのだ。たった一人の新入生として可愛がってもらった方がお得だ。
「今日はまず、作戦会議を行う!」
卓美先輩ははりきってそう言うと、部室奥の古びたロッカーの一つから、小さなホワイトボードを取り出す。と同時に、風子先輩が机の上のペン立てからマジックを赤と黒二本取り出して手渡した。見事な連携プレイ……というよりは、風子先輩がすごく気の利く人だという感じ。
「帝王寺高校とは毎年交流があって、ゴールデンウィークには春季大会を見据えた模擬戦をやっとる」
ふむふむ。たしかそんな話の流れだった気がする。
「ほんで、春季大会は五月末。春季大会はインターハイ予選……つまり、全国大会予選を兼ねている」
ホワイトボードに赤い字で『GW→模擬戦』その下に『五月末→春季大会』と書きこまれる。
「とにもかくにも、とりあえずは模擬戦までに初心者マークの天を仕上げなあかん。少年マンガで言うと修業編や。ちょい早いけど」
「あんまり少年マンガ知らないんですが……」
夕方にアニメでやっているのを見るともなしに見たことがあるくらいか。でも、卓美先輩が好きなら読んでみてもいい。
「細かいこと気にしたらアカン」
気にしなくていいらしい。赤い字で『修業!』と書かれる。
「何はともあれ必要なんは、基礎体力や」
『修業!』の横に『・基礎体力』と黒い字で書きこまれる。
「山の中歩くだけで精一杯やったら、知識もクソもあらへん。そんで、まぁまぁトレーニングにも慣れてきたかなーゆうところで、次に基礎知識を学ぶ」
『・基礎体力』の下に『・基礎知識』が書きこまれる。
「一人前になったところで、あいつらには勝てへん。プラスアルファが必要や」
最後に『・プラスアルファ』。
「卓美、私たち二年生のトレーニングはどうするのです?」
燐先輩が聞く。
「俺らは、持ち回りで天のコーチをしつつ、もうちょいハードなトレーニングをする。天に教えながら基礎を振り返る。これが春のトレーニング方針や」
さらにキュッキュとマジックがボードの上を滑り、春のトレーニング方針とやらが完成する。
『GW→模擬戦
五月末→春季大会
修業! ・基礎体力(コーチ:フーコ)
・基礎知識(コーチ:りんちゃん)
・プラスアルファ(コーチ:オレ) 』
「どや、ついて来れるか?」
卓美先輩が、あたしの目を見て問う。
「は、はい! 頑張ります!」
「おっしゃ、その意気や」
ちょっぴりハイテンションなあたしが答えると、卓美先輩はあたしの頭をクシャクシャと撫でる。
ふおおおおお、ソラ頑張る‼
心の中でガッツポーズ。
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