まくぎれ

よそ 血潮に泡と落ちる、ひとざかななり

 七月二十一日、土曜日。夏休み初日というものは、意味もなく早起きしてしまう。佐強さきょうは気分良くベッドの上で伸びをし、身なりを整えて食堂に向かった。

 そこでは三人の父たちが待っている。


「おっはよー」

「なんだ、もう起きてきたのか、佐強」


 室内はコーヒーの良い香りがただよっていた。鴉紋あもんは台所に立ったまま、こちらを見ることなく返事する。例によって、念入りにお気に入りの一杯を作っているのだ。


「おはようございます、佐強くん」


 直郎ちょくろうは出勤前らしく、Yシャツにネクタイ姿だ。物静かで穏やか、この人がいるポイントだけちょっと空気が澄んだような気がする。そういうところが、小児科医という職業において、子どもたちから信頼されそうだなと佐強は思っていた。


「サッちゃんおはよ~、早起き偉いね」


 謎の赤黒い調味料――たぶんどこかから仕入れてきた激辛ソース――を目玉焼きにかけながら、八津次はつじが手を振る。コーヒーに混ざって異臭がすると思ったらこれだ。

 外から小鳥のさえずりが聞こえる。


「とーちゃん、朝から胃腸死なない?」

「刺激が足りないんだよ、刺激が」

味蕾みらいが壊れているだけだろうが」


 鴉紋が全員の前に熱いコーヒーのマグカップを置いた。夏だろうが冬だろうが、いつもホットだ。珍しく土曜日に休暇が当たったらしい。


「八津次。それを食う前に、俺の珈琲を味わえ」


 激辛でしびれた舌で自慢のドリップを飲まれるのは許さん、と般若のような顔でひとにらみし、佐強に向き直る。


「で、どんな風の吹き回しだ」

「おはよ。今日から夏休みだよ、忘れたの? オヤジ」


 ああ、と納得した声を上げる鴉紋を横に、佐強と直郎は両手を組み合わせた。


しゅよ、この恵みに感謝します。主の御名によっていただきます。アーメン)


 クリスチャンである直郎から受け継いだ、食前の祈り。すっかり癖になってしまったが、恥ずかしさはもう通りこして、やらないと落ち着かない。

 今日は豆のブレンドを変えたとかで鴉紋が長々と講釈したが、佐強は聞き流しながらカップの中身を味わった。とりあえず缶コーヒーとは別種の飲み物、ということだけは確かだ。飲むと頭がスッキリして、活力がみなぎる。


「あ、ボクは明日から本焼きに入るから、一週間は帰れないからね」

「この真夏にまた? とーちゃん、ほんと陶芸好きだね」

「そりゃ専門家ですから」

「熱中症には気をつけてくださいね、八津次さん」


 たきぎかまで作品を焼くとなると、温度を上げ、火力を調整し、消化して冷えるのを待ち、とつきっきりになる。まったく大変なことだ。


「サッちゃん、たまにはうちの工房見に来なよ」

「気が向いたらね」


 佐強はその日、予定通り同級生の南波や本島たちと映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』を鑑賞し、帰りにゲームショップや本屋を冷やかして遊んだ。

 翌朝起きると、部屋に覚えのないコンビニのレジ袋が置いてある。菓子やら飲み物があり、しばらく考えこんだが、夜中に起きて買い出しに行ったのだった。


 だらだらしていると、あっという間に七月が終わる。八月の第二木曜日には台風13号(サンサン)が来たりしたが、平和なものだ。

 いや、警察官の鴉紋や医者の直郎は休みの日も急に呼び出されたり、二週間の連続勤務がざらにあったりと、せわしない限りだったが。


 大人は大変だなあ、とそれを横目にしつつ、佐強は夏休みの課題を片付けつつ、大半はやはり友人たちと遊んだり、旅行にくり出したりした。

 ある日のお楽しみは、心霊スポット突撃肝試しだ。出てきたのは幽霊ではなく凶悪そうなヤンキーたちで、110番通報をして事なきを得た。

 しかし鴉紋に大目玉を喰らったので、まったくもって無事ではない。


 それからしばらく、八津次は「あっ……」「肩に……」とか意味深なことを言ってきた。嫌な冗談だが、反応すると余計にからかわれるので、必死で無視する。

 スマホで通話していたら、急に真面目なトーンで『サッちゃんの後ろで話してる女の子、誰?』と言われた時は、一気に肝が冷えた。


「父さん、ちょっと相談に乗ってほしいんだけど」

「どうかしたんですか、佐強くん。……ずいぶんと顔色が良くないですね」

「教会で悪霊のお祓いって、できんのかな……」


 結果、八津次は鴉紋と直郎にステレオでお説教を受け、溜飲が下がった佐強は腹がよじれるほど笑った次第だ。そうして日々は過ぎていく。


 八月十五日、終戦記念日。目が覚めてすぐ、佐強は違和感を覚えた。


(あれ? 今日、他になんかあったっけ)


 何か特別なことがあったような気がするが、すぐには出てこない。誕生日のような、卒業式の日みたいな、何か決定的な区切りの日。

 外から小鳥のさえずりが聞こえる。夏休みの間、何度も聞いているき声。目をやると、室内にまばゆい青色の体と、オレンジの腹を持った小鳥がいた。

 カワセミだ。


「ああ……。そっかぁ」


 ぱちりとまばたくと、佐強の両眼は湖面のような翡翠色に変わる。

 翠良みすら尾瀬おぜでの出来事を、裏巽うらたつみ信多郎しんたろうとすずめのことを、父たちや村に起きたことをすべて思い出した。どうして今、自分がこうしているかも。

 今日が最後の日だ、このまま夢に留まるか否かの別れ道。


「オヤジ、父さん、とーちゃん、おはよう」

「おう、お早う」

「おはようございます」

「おーはーよ~」


 朝食はいつも通りだった。鴉紋が入念にドリップした熱いコーヒーを出し、目玉焼きにハムかベーコンかソーセジと、レタスやキュウリを添えたもの。トースト。

 カワセミがさえずる。

 この家では、使った食器は自分で洗うルールだ。佐強はいつもよりゆっくり皿を洗い、食堂のドアに手をかけて、しばらくじっとたたずんだ。


 ドアノブから手を離し、後ろを振り返る。

 父たちはそれぞれダイニングチェアに腰かけて、こちらを見つめていた。幼いころから、当たり前に注がれてきたまなざし。

 一日一日、息子の成長を焼きつけて。健やかに育つことを願って。将来どんな大人になるだろうと、真剣に考えてきた人たちの、眼。

 これからは、二度と自分に向けられることがないものだ。


「オレ、もう行くよ」


 ここにいる父たちは、神が作った偽物でも幻でもない。本人たちの魂だ。


「いつでも帰ってこいよ、佐強。は、お前の家だ」

「いってらっしゃい、佐強くん」

「じゃあね、サッちゃん。帰省するときは、お土産よろしく」


 ドアの向こうに足を踏み入れると、カワセミの青がひらめいた。


 目をこすろうとして、ベッドにいる自分を発見する。

 佐強は八月十五日に翠良尾瀬村を襲った土砂災害の被災者として救助され、神島かみしま市民病院に収容されていた。土砂は集落の大半を襲い、村民の半数が亡くなった。



 入院中に一度、裏巽和泉子いずみこに会いたかったが、彼女は早くに退院していた。翠良尾瀬の災害直後、急に健康体になったらしい。祟りが終わったからだろう。

 半年も入院して、村では怪事件が起き、最後は災害で弟――夫――と、娘を失った。それはどんな心境だろうと考えて、佐強は同じ身の上に気づいて苦笑する。


 佐強の両眼は、また元の黒茶色に戻っていた。

 だが人魚の血は――依然として残っている。


 あちこちに電話をかけて、色んな書類を書いて、佐強は宇生方うぶかた家、せい家、松羅まつら家――父たちの実家と、連絡を取ることに成功した。

 八津次の実家は息子に関心がないというか、放任主義で「インドでくたばったかと思っていた」とのたまう始末。他に宛てがあるなら関わらない、と主張した。


 逆に気乗りだったのは、鴉紋の両親と直郎の養い親だ。

 最終的には世夫妻が佐強の保護責任者となった。施設から引き取った直郎の他に子供はおらず、血がつながらなくとも、孫なら責任を持って面倒を見たいと。

 佐強には、父たちが積み立てた学資保険や生命保険が遺されていた。高校を卒業したら、独り立ちするには充分だ。そう考えていたのだが。


「せっかくお爺ちゃんに会ったのに、ずいぶんと気が早いじゃないか。……まったく、直郎ももっと早く、佐強くんに会わせてくれれば良かったのに」


 寂しそうに微笑みながら、直郎の養父・育人いくひとはそう言った。だから、高校卒業と言わず、大学を出るまで家で暮らさないかと。

 父たちが佐強を自分の親に紹介しなかった理由は、なんとなく想像がつく。母の那智子なちこに至っては、引取先の小田島おだじま家から絶縁されていた。


 それにしても。直郎の養父も養母も、血がつながっていないとは思えないほど、雰囲気がよく似ている。茫洋とした春の日差しのように柔らかく、温かな雰囲気。

 物静かで、知的で、眼鏡をかけている。直郎が年老いたら、そっくり同じような男性になっていたのではないかと思わせた。この人たちの元で彼は育ったのだ。


(あっちの神さまと、龍神が喧嘩したら、じいちゃんとばあちゃんも連れて行かれちまうのかな。だってオレ、人魚だし)


「あの、すみません」

「うん」

「オレを引き取る話、少し待ってもらえませんか」


 そうか、と短く言って、育人は話を打ち切った。もう七十近いこの人に、余計な呪いを及ばせたくない。近くにいる人を失うのはたくさんだ。

 しかし「それはそれ、これはこれ」と、育人は一度に三人が死んだゴタゴタの処理に駆けずり回ってくれた。


 まずは直郎の勤務先である八王子由鈴宮ゆうりんのみや総合病院。そして八津次が作品を下ろしていたショップ。陶芸工房は、彼が死んだ八月十三日に火事で倒壊していた。

 これは最近になるまで誰も気がつかなかった事実で、山火事にもならず、きれいさっぱり全焼という有り様だ。あの赤い獣と関係があるのだろうか。


 さて、厄介だったのは警察だ。

 鴉紋は診断書、おそらく偽造をひっさげて病気休職をもぎ取っており、療養中のはずが関西近畿の田舎で災害に遭って死んでいる。

 さすがに取調室とはいかないが、「いったいどういうことか」と佐強は幾度となく事情を訊かれた。しかし、説明できることなど何もない。

 山あいの村に神さまや人魚が本当にいて、のような化け物と戦った、なんて話を誰が信じるだろう。


 翠良尾瀬で父たちの偽物が起こした殺人は、すべて災害の被害者に置き換えられていた。願施がぜざき家の事件さえそうだ。犯人の息子である志馬しまは、どうしているだろう。

 死んではいないという予感があった。けれど、彼とは連絡先の交換もしていない。佐強が両手を失って、ろくにスマホも扱えなかったためだ。


 鴉紋の部下だったという矢内やない杜人もりと刑事は、「また来ます」と強い意志を秘めて帰った。ところがそれ以後、ぱったりと音沙汰がなくなる。

 誰もが父たちの不審な災害死を追及しなくなった。それは佐強自身がそう望み、人魚の力が現実にそれを強制してしまったからだ。


 翠良尾瀬の伝説では、人魚の翡翠姫は血の一滴で、ありとあらゆる病や怪我を治した。佐強にも同じことができるはずだ。

 だから恐ろしい。いつか自分はこの力で道を外し、どこかの時点で龍神が望むままに、人間に食われてしまうだろう。けれど、希望が一つある。

 自分にはまだ、やらなくてはいけないことがあるのだから。


「ここでいいかな」


 季節は夏から秋、そして冬へ移り変わろうとしたころ。父たちの遺体は見つからないまま、(松羅家以外)実家で葬儀が執り行われ、佐強も参列した。

 災害に巻きこまれて遺体が出ないなら、死んでいると思いながらも、わずかな望みにかけて待つのが人情というものだ。だが、父たちは龍神に連れて行かれた。

 神がこの世から三つの命を切り取れば、否応なく死として認識される。


 佐強は以前のように、八王子の家で暮らしながら学校へ通い、宇生方家や育人の手を借りながら、父たちの荷物を少しずつ整理していった。


 鴉紋の部屋はコーヒー関連の書籍と、法律関係、警察関係の本でいっぱいだ。それに男性向けファッション誌。身なりに気を遣っていた彼らしい。

 机にはウェディングドレスの母と、タキシード姿で映った写真が飾ってあった。

 クローゼットにはオーダーメイドのスーツが何着もあって、愛用していたアイロンとアイロン台なんかがある。それにトレーニング器具。


 八津次の部屋はとにかく雑然としていた。ゲーミングパソコンにヘッドセット、佐強も使わせてもらった種々のゲーム機。何かのプレミアムTシャツに、激辛調味料が詰まった箱。南米の仮面や呪いの人形らしき不気味なアイテム。三味線。

 ジョークグッズやらフィギュアやら用途不明の工具箱に埋もれながら、佐強はアルバム一式があるのを発見した。家族全員の記録が、きちんと棚に整理されている。


 直郎の部屋は整頓され、さっぱりとしたものだ。

 やはり医学書や、児童虐待に関する書籍が山ほどある。その中にシールやら、歌の本やら、日曜朝の特撮シリーズやキッズアニメのソフトが混ざっている。

 子供の興味を引いたり、話題を合わせるため苦心した様子がうかがえた。

 引き出しの鍵を壊して開けた時は罪悪感があったが、出てきたのはまだ若い、直郎と母が付き合っていた当時と思わせる写真だ。とても、幸せそうだった。


「父さん、一度もこんな風に笑ったことなかったな」


 最後、母の部屋はきちんと片付けられていて、今さら佐強がどうこうするものは何もない。時間が止まったまま、生活感や思い出が降り積もらない空っぽの箱だ。

 持って行きたい品はたくさんあったけれど、これからの生活には重すぎる。八王子の家を、遺産で維持するのは厳しそうだった。


 アパートを借りるか、世家の世話になるかは、まだ決めあぐねていた。だが、その前に最後の仕事が残っている。とても、大事な仕事が。


「さて、と」


 佐強は食堂の前に立った。何の変哲もない曇り硝子の扉、今日も昨日も通ったそこが、今は別の所につながっていくのを感じる。自分がそう望んだから。

 この扉の向こうに、父たちがいる。元の人間の姿ではなく、龍神の眷属として。


 ノブをひねった瞬間から、冷気とも熱気ともつかない空気が、向こう側からにじみ出した。壁との隙間が大きくなるにつれ、えた悪臭が押し寄せてくる。

 耳の穴から鼓膜までいっぱいに悲鳴が詰めこまれた。何十人いるかも分からない男たちが、苦痛と哀願に満ちた絶叫をとどろかせ、頭が痛くなる。


 吐き気がするのをこらえて、佐強は扉を最後まで開け放った。

 想像していたような地獄絵図はなく、真っ暗闇が広がっている。阿鼻叫喚の叫びは闇の中で、遠く、近く、大小様々にどよもしていた。


――あかかおん!


 赤い獣の声がして、肉と骨を噛みちぎる咀嚼音がする。


――あかかおん! あかかおん!


 緞帳どんちょうのような闇をかき分けて、三つの人影がゆっくりと現れた。

 一人は般若面の大柄な男。ジャケット、ベスト、パンツを同じ生地であつらえた三つ揃いのスーツで、羽織ったコートの裾が血に染まっている。

 一人は翁面の中肉中背の男。医者らしい長白衣には血しぶきがあざやかで、何本もデタラメに生えた腕に、汚れた刃物や工具を持っていた。

 一人はひょろりとした狐面の男。こんな場所でも青い髪が目立つ。アロハシャツに描かれたハイビスカスと血が渾然こんぜんとして、地獄用の迷彩というおもむきだった。


「やっぱりここにいたんだ、みんな」


 八王子でひっそりと祀られていたは、龍神みすらに挑んで敗れた。そして今、死んだ父たちの魂は悪人喰らいの獣と一体になっている。

 父たちは無言で仮面を外した。肉と一体化でもしていたのか、ニチャリと粘着質な音がして、血の糸を引きながら佐強へ差し出される。


 あらわになった彼らの素顔は、所々肌が剥けて自分自身の血にまみれていた。表情はみな虚ろで、眼球がこちらを向いていても、佐強そのものを見てはいない。


「もう、いいだろ」


 両手に力を込めて、翁の面をへし折る。


「こんなことしなくたって。もしかして助けを必要とする人がいたって」


 手に持った狐の面に、拳をぶつけて叩き割る。


「オヤジたちが地獄の獄卒なんて、笑えねえんだよ!」


 膝に叩きつけて、般若の面を壊す。

 絶え間ない悲鳴と生臭さ、尿と糞便の悪臭。腐った水槽に沈んだ気分がした。今この瞬間も、目の前にいる父たちとは別の個体が「悪人」を責め立てているのだろう。


――みんなは、当然の報いだと思ってこれを受け容れたのに?


 みすらが那智子の甘い声でささやいた。


「うるせえよ! とっとと解放しやがれ極悪龍神!」


――ここに置いておけば、いつでも再会できるのに。あの夢からだって覚める必要なかったでしょう? ずっとみんなで、いっしょに暮らしましょうよ。


「お前にオレの人生を決める権利はない。人魚になったって、オレは一人の人間で、あんたの分身だろうが何だろうがオレはオレだ!」


――それは、自由意志ということかしら。


「そうだよ」


――日蝕を起こす月も、土から芽吹く葉も、高い所から低い所へ流れ落ちる水も、みんな同じことを思っているわ。


「それでも。オレはオレの思うまま、あんたに要求する。父さんたちを眷属から解放しろ、こんなことに使うな。安らかに、眠らせてくれ」


 きゅうう、と悲しげな獣のうなりがした。


――人魚姫は最後、泡になって消えたわね。あなたも同じ。


「オレは消えない、行ける所まで生きてやる。そうだな、泡になったら風に乗って、どこへでも自由気ままに飛んでいくさ」


――あら。それは。


 みすらが意外そうな声を出した。たとえ振りでも、神がそんな反応をするのか。


――ちょっと、うらやましいわね。


「だろ?」


 キャン、と獣が泣く声を最後に、真っ暗闇の世界はただの食堂に変わっていた。別れの言葉も、派手な演出もありゃしない。

 けれども。部屋に入る前から父たちが囚われていたと感じていたように、今は、間違いなく三人とも解放されたのだと、佐強には分かる。


 父たちの為したことで助けられた人も、確かにいたのかもしれない。

 でも、これだけは。こんなことだけは、佐強は耐えられない。失った大切な家族が、あの悪辣あくらつな神の下僕として永久に使役されるなどということは。

 だからこれでいいのだ。


「さよなら」


 床には、カワセミの青い羽根が落ちていた。


◆ ◆ ◆


「風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞いても、それがどこから来て、どこへ行くのかを知らない。霊から生まれた者も皆そのとおりである」


                   (ヨハネによる福音書 3章8節)


【ついぐなの人魚は血を泳ぐ 完】

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