第3話
――見つかった!
ありすは緊張から身を硬くした。
「い、いえ。なんでもないの。大丈夫よ、リリー」
「ですが声を出していたでしょう? 誰かとお話していたのでは?」
ありすの傍まで歩いてきたリリーは、きょろきょろと辺りを見渡すように首を回した。
「こんな屋敷の端に誰もいるはずなんてないじゃない。リリーの聞き間違えじゃないかしら?」
「いえ。確かに聞こえました。私、こう見えても耳はいいんです」
ありすは狼狽えた。
鏡の秘密がバレてはいけない、そう思ったからだ。
しかし一体、どうすれば――そうだ!
「演劇よ! 演劇の練習をしていたの。ほら、まだ拙いから誰かに見られると恥ずかしいじゃない? ここなら滅多に人も通らないし、練習にうってつけなの!」
「……それは本当ですか?」
「本当よ! ほら――」
ありすは先日習ったばかりの振りを、台詞を交えつつ少しばかり大仰に、リリーへ披露した。
リリーは最初こそ疑り深い視線を送っていたものの、だんだんと表情を緩めていった。
「……そのようですね。わかりました。私は何も見ていないことにします。練習、頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう、リリー」
ありすはダメ押しと言わんばかりに、もう一場面演じてみせる。
リリーはそれを見届けてから、踵を返してその場を離れて行った。
「ふぅ……。なんとかなったわね。よかったわ」
ありすは安堵し、汗を拭う。
しかし緊張と突然の運動で、思っていたよりも体力を消耗していたらしい。
気が抜けたせいか足元がふらつき、よろめいてしまった。
「お……っとっと」
倒れそうになった身体を支えようと、ありすが壁に手をついたその時だった。
手のひらが何かに触れた感触と共に
――ガシャァァアアン!!
と、激しく甲高い破砕音が炸裂した。
「え――」
驚いて音の方に視線を向けると、そこには壁から落下して粉々になった鏡があった。
ありすの身体から、さっと体温の抜け落ちる心地がした。
「お嬢様!?」
慌てた様子でリリーが走ってくるが、今のありすにはそちらに気を配る余裕がない。
「あ……あぁ……ぁぁああ…………」
「大丈夫ですか!? お怪我は……」
リリーがそう言いながら近づくが、ありすはそちらに目線もくれず、弾かれたように割れてしまった鏡へと飛びついた。
「――アリス! アリス! ねえ返事して! アリス!」
「お嬢様!? 危ないですよ!」
割れた鏡を掴んで叫ぶありすを、リリーが羽交い絞めにした。
「離して! アリスが……アリスが……!」
「アリスはお嬢様です! 頭でも打ちましたか!? お医者様を呼びますから、お部屋で休んで下さい!」
「嫌ぁ! 違うの! ねえアリス! お願いだから返事してよ! ねえったら!」
しかし当然、割れた鏡からは返事など、返ってはこない。
それでも暴れて逃れようとするありすだったが、騒ぎを聞きつけてやってきた屋敷の使用人たちに運ばれ、部屋へと連れて行かれてしまった。
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