第23話 私はぼっち
《晶視点》
俺たちは今、美姫のクラスでカラフルなクリームソーダを飲みながら次はどこに行こうかと話し合っている。クレープ食べたいだのたこ焼きが良いだの…食べてばかりだな。
「ねぇ、高井さんってやっぱりさ…」
ふと教室の隅の方から話声が聞こえたので耳をすましてみた。
「あの2人のどちらかと…いやむしろどちらも?」
「絶対そうでしょ。中学の噂も本当らしいし…。」
教室の時計を探すふりをして声がする方向へ視線を向けると、2人の女子が美姫の背中を見てヒソヒソと陰口を言っている。たぶん同じクラスの子であろう。
「くそビッチ。セフレでしょ。」
その一言が聞こえた瞬間、俺は思わず声が出た。
「…おぃ」
「ねーさっきから聞こえてんだけど?」
が、俺の声を遮るかのように美姫が2人の女子に向かって話しかけた。
「日向も晶もあたしの友達。そうゆう妄想しか出来ないの?ビッチはどちらなんだか。」
美姫が2人の事を煽り続ける。
「妬んでるの?きっしょ。」
「な…ッ!」
「おい美姫。やめとけ。」
美姫は自分の事を悪くいう人には強く出るやつだ。きっと中学の頃からの癖なのだろう。
「…ごめん、雰囲気悪くした。」
「まあまあ〜美姫は悪くないじゃん。それに僕は春と楽しくしりとりしてたから。ねー春ー?」
「る…る…る…ルール…は言ったし…ルーマニア!…もさっき言ったな…。」
「……おい日向、春ちゃんいじめるなよ。」
日向は良い奴だ。だからこうして俺たちが嫌な思いをしないよう動いてくれる。…敵わないよな、こいつには。
「そろそろ行こう。あんまり長居するのもあれだし。」
俺は3人を連れて教室を出た。…と思わせ俺1人だけ教室へ戻る。
「言い忘れた事があるんだけど…。」
先程の女子2人に声をかけた。2人は俺の顔を見て一瞬だけ驚き、顔をこわばらせる。
「……俺。ずっとずっと前から好きな子がいるんだよね。…後、……残念ながら童貞なんだ。」
女子たちは口をポカンと開けていた。俺はそれを確認して教室を出た。…開いていたドアを閉め3人の後を追いかけた。
「ぅ〜…お母さんどこ行っちゃったの〜…。」
最後の一言は余計だったな、と後悔しつつ、3人を追いかけようと教室を出たら、半べそをかいている中学生くらいの女の子が周りをきょろきょろしていた。
「……どうかしました?」
俺が声をかけると、女の子は最初こそ戸惑っていたが、弱った小鳥のように、小刻みに震えながら状況を説明してくれた。
「えっと…お母さんとここの文化祭に来ていたのですが…はぐれてしまって…連絡もつかなくて…」
「それは大変ですね…お母様ははぐれる前、どこかへ行くとか言ってませんでした?」
「あ、…えっと…ここに来る前に、写真部の展示を見に行きたいとは言ってたんですけど…。」
「もしかしたらそこにいるかもしれないですね。行ってみましょうか!案内しますよ。」
俺は彼女ににっこりと笑いかけ、写真部の作品が展示されている教室へと案内することにした。
「お母さん!!」
「あ!雀ちゃん!」
「もーなんでRINE返してくれないの?!」
「あ、ごめんねぇ。充電切れちゃってたの。」
雀ちゃんと呼ばれた女の子は母親らしき人の元へ走っていった。
「お母さんと会えてよかった。じゃあ俺はこれで。」
「あ、ありがとうございました…!」
「じゃあ、我が校の文化祭、最後まで楽しんでくださいね。雀さん。」
俺は彼女とその母親に会釈して教室を出た。
「…かっこいい。執事様…。」
「あらあら雀ちゃん。顔が赤いわよぉ。」
《春視点》
「文化祭、楽しかったなぁ。」
クラスの受付は大変だったけど…美姫と飲んだイケメン執事がいれてくれたお紅茶に、オレンジ色のクリームソーダ、美味しかった…日向と美姫が私のクラスのお化け屋敷に入って、中から日向の悲鳴と美姫の笑い声が聞こえてきて面白かったな…いつの間にかいなくなってた晶と合流した後は4人でドーナツ食べて……ロシアンたこ焼きは辛かったなぁ…。
「今頃、日向は美姫と…。」
空も暗くなり始め、もうすぐ後夜祭が始まる。私は廊下で1人、窓の外を眺めていた。今年の花火は何発上がって、何人のカップルが誕生するのだろう…。
「……ん?」
ふとポケットの中に手を突っ込むと、中から何かが出てきた。昼間に田山くんから貰った人形焼だ。
「…潰れちゃった。」
ぺちゃんこになっていた人形焼を開けて一口食べる。
「…甘い。」
美味しい和菓子がここにあるのに、なぜ今は日が沈んでいるんだろう。日向ぼっこにぴったりなのに。
「田山くんは今頃…先輩と上手くいってるかな…。」
田山くんの無事を夜空に願う。
「美姫と日向も…」
2人は上手くいってるだろうか。上手くいってるといいな。…と、思いたいのに、複雑な気持ちでいる自分がいる。
「……私は今年も1人かぁ。…いや、1人じゃないね、人形焼がいるもんね。」
顔の部分が
「……。私は結局、ぼっちは卒業できてない…ね。はは…。」
人形焼の体を口の中にほおりこんだ。口の中に甘さが広がる…けど少しだけ、しょっぱい気がした。
「…花火なんてみないで、帰ろうかな。」
足元に置いていた、リュックを背負った。
「春、待って。」
声がした方へ振り向くと、そこには愛しい君が。
…窓の外に、大きくて綺麗な花が咲いた。
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