第22話 お化けと人形にお紅茶を

「安藤さん!じゃあ1時間受付よろしくね!」

「うん。分かった。」

 そう言って私は受付席に着いた。

 本日は文化祭。私のクラスの出し物はお化け屋敷だ。私はお化けの役をやりたくなかったので、委員の人に受付を希望したのだが…大変喜ばれた。

「受付なんて単純作業だから楽勝楽勝…。」

 そう言って鼻歌を歌っていたのだが…私のクラスは想像以上に忙しかった。

「え、えっと、2名様入ります!」

「次、3名様です…!」

「ご、ごご5名様?!に、2名と3名に別れてください…!」

 出口の様子を見ながら次のお客様を、そしてリストにお客さんの数を記録して………ヤバい、目が回ってきた。鼻歌なんて歌ってる余裕が無い。

「ギャーーーーー。」

「無理、無理、無理!」

 教室から悲鳴が聞こえてくる。出口から出てくる人達の中には泣いてしまっている人もいた。そんなに怖いのかうちのクラス…。

「安藤さん!!おつかれ!交代するよ!」

 交代の子が私に話しかけてきた。

「うん…よろしくお願いします…。」

「はーい。これ食べる?」

 そう言って彼は人形焼を私に差し出した。

「あ、ありがと…!」

 甘いものを欲していた私はありがたく頂戴した。

「いいえー!…うわ!めちゃめちゃお客さん来てるじゃん!ほんとにお疲れ様!」

 彼はリストを見て驚いていた。

「うん…目が回っちゃった。」

「大変だったね〜。今ちょうど落ち着いてきたし、少し休んでったら?俺と話そうよ!」

「う、うん…?みんなが来るまでなら、いいよ。」

 あまり話したことの無いクラスの男の子。名前は確か…。

「…や、山田くん。」

「ぶ!!ちょ、わざと?!田山たやまだよ!」

「あ、あ…ごめんなさい。」

「え、ちょガチの間違い?!ショックだな〜。」

 田山くんは笑いながらそう言った。

「た、田山くんは…花火、誰かと見るの?」

「……花火の噂の事知ってて聞いてる?」

「う、うん…クラスの子が話してた。」

「……俺さ、この学校に1つ上の幼馴染がいるんだよ。…その幼馴染を誘うつもり。」

「…!す、凄い!」

「す…ごいのか?まあ、彼氏持ちだから来てくれるかはわかんないけどね…。」

「…彼氏持ち…。」

「そうそう。卒業した先輩。けどその先輩、女癖が悪くてさ…大学でやりたい放題らしくて…。だから俺は別れさせたい。」

「…。」

「…はは、片想いって辛いね。安藤さんは?誰か誘うの?」

「……私は…1人で見るかな。」

「いつも一緒にいる子達は誘わないの?」

「うん…私がいたら、邪魔だし…。」

「?…そんな事ないんじゃない?」

「ううん。そうなの。…これ以上、私は調子乗ったらダメなの。」

「…。まあ、お互い楽しもうね。」

「ごめん、変な感じにして。」

 どうしよう…ネガティブ発言をしたせいで場の空気が凍ってしまった…。

「春ー迎えに来たよー。」

 この場から消えたい…そう思った時にちょうど美姫がやってきた。

「お、迎え来てよかったね。じゃあ、またね!」

「うん…ありがとう、田山くん。…その、頑張ってね…!」

「…おう、ありがとよ!」

 田山くんを残し、美姫の元へ小走りで駆け寄った。


「さっきの子、彼氏ー?」

 美姫がニヤついて聞いてきた。

「ち、違うよ。クラスの子。」

「ふーん?」

 そして少し残念そうな顔をした。

「それより、美姫だけ?2人は?」

「2人はまだ仕事中ー。だから2人のクラス行ってみよ!」

「!いいね…!そういえば2人のクラスは何やってるの?」

「2人のクラスは…。」



「お帰りなさいませ。お嬢様。」

 日向と晶のクラスは執事喫茶だった。

「日向、晶。この愛らしい私たちに美味しいお紅茶をよろしくて?」

 美姫は酔いしれていた。

「チッ、調子いいやつ…。」

「え?なんです?」

「美しさに目が眩むと申しました。」

 いつもの日向と美姫の茶番が始まる。

「お!春ちゃん、美姫!いらっしゃい。…コホンッお嬢様、お席までご案内致します。」

 晶が方手を胸に当てお辞儀をした。

 日向と晶は漫画に出てくるような紳士服を身につけて接客をしている。背の高い晶はすごく様になっていた。

「晶かっこいいじゃーん!」

「似合っておりますか?」

「うん!似合う似合う!ね!春!」

「うん…!すごく似合ってるよ。」

 私がそういうと晶は少し顔を赤らめていた。

「オマタセイタシマシタ。オコウチャデス。」

 日向が晶の前に割って入って私たちのテーブルに紅茶を置く。

「じゃあ2人とも!もう少しでシフト終わりだから待っててね!」

「ゴユックリドウゾ。」

 日向は棒読みでそういうと、晶を引っ張って去ってしまった。

「……。ねぇ、春。」

「うん…?」

「…今日の後夜祭の花火なんだけど」

「あ、日向と見るんでしょ?」

「…いいの?」

「いいのって…当たり前だよ。美姫は日向と見るべきだよ。」

「…そう言ってくれるなら。日向の事、あたし誘うね。」

「うん、そうして。」

「は、春は?一緒に見る人いるの?」

「うーん晶でも誘おうかな。」

「……。ねぇ、花火の噂知ってて言ってる?」

「ん?花火の噂?…それってなあに?」

「…いいや、なんでもない。春が1人にならないなら心配ないの。」

 美姫は複雑そうな顔をして紅茶を口に運んだ。

「あ、そういえば。晶に美姫の化粧、褒めて貰えたよ!魔法使いも夢じゃないね…!」

「え?あ、あーそうなんだ。それならよかった。」

「自信ついた?」

「…うん、ついたよ。」

「それなら良かった…!」

 私は嬉しい顔をして紅茶を口に運んだ。

「…ふふ、あたしの真似しないでよ。」

「え?…紅茶?あたしのは砂糖入りの甘いやつで、そっちのは無糖の苦いやつでしょ?」

「そうじゃないって。まあ春らしいや。」

 美姫の表情は甘い笑顔へと変わった。

「ねぇねぇ、そこのお姉さん達。僕たちとクリームソーダ飲み行かない?」

 声がした方へ顔を向けると、紳士服姿の日向と晶がそこにいた。

「えーお紅茶飲み終わったらね!」

「じゃあそれまで待ってる♡」

「…フ、フフッ。そこ格好でナンパしないでよ…」

 目の前で繰り広げられているシュールな絵面に思わず吹き出してしまった。

「このエロ執事。」

「お前が言うなよ晶!」

 いつもとは違う場所、違う格好…それでも私達は、いつも通り4人が笑顔で楽しく過ごしていた。


 ……そう、みんな、笑顔で。

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