第18話 魔法使いの嫉妬
「春は化粧した方がぜっったい可愛いって〜!あたしに任せて!」
夏休みも終盤。私は美姫の部屋にお邪魔していた。
「えーでも…時間に遅れちゃわない…?」
「大丈夫大丈夫!実は2人には1時間遅く集合時間伝えてあるから!」
「え、えー…。」
「そんな目で見ないで!!お願い!私に春の顔化粧させて…!」
「う、うーん…わかったよ…。よろしくお願いします…。」
「ほんと?!ありがとう!!絶対後悔させません!!」
今日は4人で水族館に行く約束をしていた。私がそれを聞いたのはつい最近だったが、美姫が1人1人に連絡し、予定を合わせていたようだ。
美姫が私に、集合場所へ行くよりも先に自分の家に寄って欲しいと言っていたので来てみたが…どうやら美姫は私に化粧をしたいらしい。
「じゃあまずはスキンケアからね〜。ちょっと目つぶってて。」
そしたら次は下地〜と美姫は手際よく、そして凄く丁寧に私の顔に触れ段階を踏んで行った。
「あたしね…3人に隠してる事があってさ…。」
「…。1人で抱え込まないでね…。」
「あっはは!大丈夫大丈夫そんな重い話じゃないからさ!」
心配したが笑われてしまった。まあ悩んでいる訳では無いのなら良しとしよう…。
「あたしのママさ…実はモデルやってるんだ…。」
「!…そうなんだ!そういえばお会いしたことないなとは思ったけど…お忙しい方なのね。」
「あー…別にテレビに出るような有名な人では無いんだけどね!…雑誌には結構載せてもらってるみたい。」
「そうなんだ…雑誌あまり読まないからなぁ…。」
「あたしが小さい頃からモデルの仕事をしててさ。よくママが載ってる雑誌見せてもらったんだ。でさ…小学生の頃に見た雑誌に載ってるママ、家にいる時の優しくて穏やかなママと違って、凄くかっこよくてキラキラしてたの!」
「モデルさんってスタイル良くてオシャレな服を着こなしててかっこいいよね。」
「そうなの!スタイルもそうなんだけどさ……あたしが1番夢中になったのは、顔なんだよね。」
「顔?」
「そう。顔…というかはメイク。家にいるママは…当たり前だけど素顔じゃん?そのままのママも綺麗だなって思うんだけど、雑誌に載ってるママは…なんだろ、魔法?そう、魔法。普段の綺麗なママに魔法がかかって、更に素敵になった感じ。」
「魔法…ねぇ。」
「だからあたしは…みんなにママと同じ魔法をかけて幸せにしたい!…メイクアップアーティストになりたいんだ。」
「メイクアップアーティストか…いいね。」
美姫はスタイルが良く美人なので、私はてっきり女優かモデルにでもなるのかと思っていた。自分の力で誰かを幸せにしたいという美姫の想いは素敵だし尊敬する。
「そう簡単になれる訳では無いって事は分かってる。でも、頑張ってみたいんだ。」
「うん、応援してるよ。」
「ありがとう。頑張るね。…はい、出来た。」
美姫は私に鏡を手渡した。
「おお…化粧の上手い下手は正直分からないけど…派手すぎなくていい。」
「ふふ、正直な感想ありがとう。春に合うようにナチュラルに仕上げました。」
「うん…うん。私だけど私じゃないみたい…まるで魔法だね。」
私はそう言って笑った。美姫も嬉しそうにしている。
「それじゃあ行こっか。待ち合わせに遅れるといけないもんね。」
「あー…その事なんだけど…」
美姫は突然土下座をした。
「ごめん!ほんっっとうにごめん!!実はあたしは行けなくなりました…。」
「え、ええ!そうなの…」
「うん…ちょっとおばあちゃんの病院に付き添わなきゃ行けなくなって…。」
「そっか…それなら仕方ないね…。」
「だから今日は3人で楽しんできてね!…化粧はお詫びだと思って!」
「うん…わかった。今度はみんなで行こうね。」
「うん!絶対!ささ、遅刻しちゃうから行った行った!」
美姫は私の背中をぐいぐいと押し玄関の外まで一緒に来た。
「行ってらっしゃい。楽しんできて!」
「うん、行ってきます。」
私は数歩進んでから後ろへ振り返り
「お土産、買ってくるね…!」
と少し大きな声で言い手を振った。
「…うん!忘れなかったらよろしく!」
美姫も大きな声で返事をし手を振り返す。
笑顔で見送る美姫を後にし、私は約束の場所へと向かった。
「………あたし、最低だな。…でも…しょうがないじゃん。あたしだって…
あいつの事、まだ好きだもん。」
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