第17話 頭悪いから

「花火綺麗だったね!」

「うん。綺麗だった。」

 花火が全て打ち終わり、寂しい夜空が戻ってきた。

「……あ、あのね、日向。」

「あ、そういえばなにか言おうとしてたね。」

「……うん、そうだったんだけど…やっぱいい。」

「あら、そう?」

「うん!…それより、2人の事探さないとね。」

 伝えるのは今じゃない…花火を楽しそうに眺める君を見ててそう思った。まだ…このままでいた方がお互いに幸せなんだ…と。

「また来年も来ようね。」

 日向が優しい瞳で言う。

「…うん。」

 俯きながら返事をした。きっと君の顔を今見たら罪悪感で押しつぶされてしまう。

「日向!春!」

 参道への細道から美姫が現れた。

「もぉ〜探したよ〜!春だけかと思ったら日向までいなくなっちゃうんだもん!」

「美姫が春からのRINEを見てなかったらこうなったんでしょ!春ははぐれた時に連絡したって!」

「え、嘘?!……あ、ほんとだ〜…ごめん通知切ってるから気づかなかったよー…」

「たぶんそうだろうなって思ってたから大丈夫だよ。…送っといてなんだけど。」

「まあ見つかったことだし!晶も向こうで待ってるから早く行こ!」

 晶と美姫はきっと、私のせいで花火をきちんと見る事ができなかっただろう。その事に対して謝罪をすると、美姫は気にしてないよと明るく返事をしてくれた。だが私の腕を引っ張って歩く美姫の手の力は強くて少し痛かった気がした。



「春ちゃん!無事でよかった!ごめんね!俺ら歩くの早かったよね!」

「ううん、違うの。私がよそ見しちゃったのが悪いの。」

 晶と合流した私たちは、神社から少し歩いた遊具がほとんどない公園にいた。神社の中はまだ人でいっぱいだから公園で合流しようと美姫が晶に連絡してくれていたらしい。

「ごめんね…花火見れなかったよね…。」

 私は改めて美姫と晶に謝罪をする。

「大丈夫大丈夫!気にしないで!…ほら、花火は来年もあるし!…ここにもあるし?」

 晶はニヤニヤしながら背中に隠していた花火を私たちに見せびらかした。

「きゃー!凄い凄い!早くやろ!私こっちの花火の方が好き!」

 美姫は飛び跳ねながら喜んだ。



「つくかな…つくかな…おぅわ!!勢いすご!!花火って火をつける時緊張する〜…!」

「晶の火、貰うね〜!……うーんつかなぃ、きゃあっ!あっは!ついた〜!」

 晶と美姫は小学生のようにはしゃいでいた。

「元気よのぉ…。」

「日向もやろうよ!!ほら!あたしの火、あげるから!」

「僕は見てる方が好きだからいいよ…どうせイースタグラムに載せるんでしょ?写真撮ってあげるからスマホ貸してよ。」

「日向気が利く〜♡可愛く撮ってね!」

 美姫は日向にスマホを渡すと次々とポーズをとった。1枚じゃないの〜?!と日向は文句を言っている。

「今日、楽しかった?」

 いつの間にか隣に来ていた晶が私に問いかけた。

「?…うん、凄く楽しかったよ!」

「そっか…それなら良かった…。」

 晶はそのまま話し続ける。

「いつかさ…記憶が戻る日が来るんだよね…。」

「……うん、そう思う。」

「あ、いや!もちろん戻って欲しいんだよ?春ちゃんの記憶!…今も記憶が無くなる前もこうして1人も欠けずに4人でいれる事、嬉しいんだ。…けど、記憶が戻ってからも…こうしてちゃんと一緒にいられるのかなって…そう思っちゃう時があるんだ。」

「…。」

「何となく…気づいてるんでしょ?」

「……ごめん、何が言いたいのか…分からないや。…ほら私…頭悪いから。」

「…そうだったね。頭悪いから、俺の言いたい事わかんないか。」

「…少しショック。」

「はっはは…。ごめん、冗談だよ。」

 晶は私に向かって微笑む。

「この話はやめようか。…ちゃんと、言わなきゃいけないって思った時までに取っておく。」

「…うん。わかんないけど、そうして。」

 今はみんなで花火を楽しんでるこの時間を、少しでも長く噛み締めていたい。

「春!晶!線香花火やるよ!1番早く火が落ちた人の奢りでアイスね!」

「おーし、ハーゲンは俺のものだ!」


 ''記憶が戻ってからも''…晶の気持ちも何となく理解してあげたい…晶が奢ってくれたアイスを食べながら、私はそう思った。

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