第15話 花よりチョコバナナ
「春ー!お待たせー!」
夕方16時前。前日話し合った待ち合わせ場所で待っていると、美姫が私の名を呼びながら駆け寄ってきた。
「美姫...!すごく可愛い...」
「ありがとう!先に着付けてもらったんだ!」
青色ベースに白色の梅が描かれている浴衣は顔が綺麗な美姫によく似合い、年相応の幼さがある普段とは違って大人っぽく、いい意味で色気があった。
「春もこれから着付けるからね!春に似合いそうなのをママとあたしで選んだんだ!着付けるのはおばあちゃんなんだけどね!」
「私にはどんな浴衣を着せてくれるの?」
「それは後でのお楽しみ〜。」
「そっか。楽しみ。」
美姫とのお話に花を咲かせていたらあっという間に美姫のお家に着いた。
「あらあら、春ちゃんいらっしゃい。待ってたよ。いつも孫と主人がお世話になっております。」
「こんにちは。こちらこそお世話になっております。おじいさまの喫茶店、シフトに穴を開けてご迷惑をおかけしてしまってすみません...。」
「全然いいのよ、気にしないで。主人は寂しいとは言ってたけど迷惑だなんて思ってないわ。それに今は大変な時なんだからね。自分の事を最優先にしてね。」
美姫の家にお邪魔すると美姫のおばあさまが出迎えてくれた。おばあさまの暖かい言葉に胸がじーんとする。
「早速着付けましょうね。待ち合わせに遅れたらいけないもの。」
「よろしくお願いします。」
私はおばあさまに一礼する。慣れた手つきで着付けをするおばあさまのおかげで直ぐに終わり、待ち合わせの時間に余裕を持たせて家を出る事が出来た。
カラン、コロン。カラン、コロン。
美姫と並んで駅へ足を進める。
「...うん!やっぱり春にはこれが似合うと思ったんだ〜!」
「こんなに可愛い浴衣を貸してくれてありがとう。すごく嬉しい。」
美姫と美姫のお母様が私に選んでくれた浴衣は、白色ベースに黒のラインがいくつか入っており、所々に向日葵が描かれているデザインだ。モノトーンから咲いている黄色くて大きな向日葵が映えていてとても綺麗だ。いや、綺麗すぎる。地味な私には勿体ないくらい綺麗なのだ。
「春は化粧っ気がないからな〜本当は化粧もさせたかったんだけど、時間もないしね...」
「いやいや!浴衣だけで十分!十分すぎるくらいだよ...!」
「えー絶対可愛いのに〜!」
「美姫の方が可愛いよ...!」
お互いが譲らずに褒めあっていると目的の神社へ辿り着く。私服姿の日向と晶がこちらに手を振っていた。
「お待たせ〜!どう?あたしたち。可愛い?」
「とっても可愛いザマス。」
日向が独特な口調で私たちを褒めてくれた。
「花火まで時間あるから屋台見て回ろ!俺焼きそば食べたい!」
「あたしはたこ焼きに〜あんず飴に〜チョコバナナ!」
「美姫、食べすぎると帯が苦しくなっちゃうんじゃない...?」
「あーん、私服で来ればよかった〜。」
「屋台もいいけどお祭りは花火がメインだからね。」
「けどチョコバナナは絶対食べたい!花火の前にチョコバナナ!」
美姫が駄々っ子のように連呼する。
「花よりチョコバナナ...。」
私が思わずそう口にすると、晶が吹き出した。
「は、春ちゃん...!珍しく面白いこと言うね...!あっ、はは...っ。」
「君はもしや、天才か...?」
続けて日向も私を褒めた(?)。
「チョコバナナ美味しいもーん!...あ!チョコバナナ!」
美姫は私たちの煽りには気にもせず屋台へと走っていった。
私たちはそれぞれが目的の食べ物を手に入れる事ができ、花火の時間まで食べ物以外の屋台を見て回っていた。
金魚すくい、ヨーヨー釣りに射的...お祭りの定番が揃いも揃っている。
「...あ。」
ふとフルーツ飴屋さんの前を通った時、キラキラと輝く飴細工に目を奪われ立ち止まった。
「綺麗...。」
この飴屋さんに惹かれたのは飴細工だけではない。飴の棒にリボンが結ばれているのは専門店で見た事があるが、ここの屋台のは短いミサンガが結ばれていた。
「ミサンガ...懐かしい...子供の頃作ったなぁ...。ねぇみんな、ミサンガ作った事ある?」
そう言いながら前を見ると、3人の姿はどこにもなかった。
「.....あれ?」
どうやらみんなとはぐれてしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます