第13話 日向ぼっこ

 放課後。今日は珍しく美姫がバイトへ、晶はお母様と田舎に帰っているという事で私は1人で校内のある所へ来ていた。

「...落ち着く。」

 私が1番好きな場所、体育館前。体育館の入口には階段があり、暖かな日差しと夏の風がとても心地よい。

「何してるの?」

「あ、日向...」

「隣、いい?」

「うん...おいで。」

 時間を忘れてぼーっとしていると、私を見つけた日向が隣に座った。

「で、何してたの?」

「日向ぼっこだよ。」

「日向ぼっこ、好きなの?」

「うん、好き。...日向は?日向ぼっこ...好き?」

「うーん...。あんドーナツと同じくらい?」

「.....。あんドーナツ、好きなの?」

「わかんない!」

「わかんないんかい!」

 日向の適当な返しに思わず突っ込み、笑ってしまった。日向も私に釣られて笑っている。

「日向ぼっこ...か。なんかおばあちゃんみたいだね。」

「お茶と和菓子があったら最高かな。」

続けて私は、私の幼い頃の話を始める。

「私、小学生の頃にバスケのクラブチームに入ってたんだ。で、1回開始時間を勘違いして1時間早く来ちゃったことがあったの。」

「ふーん。それで?」

「案の定体育館が空いてなかったからさ...監督が来るまで体育館前に座って待ってたの。その時は秋に入ってたから、少し涼しかったんだ...。お昼だったから日が強くてポカポカしてて、けど秋風が涼しくて...」

「そっから日向ぼっこにハマったと?」

「そう!すごく心地よかった。その日以降、友達がいなくて元々1人だった私は、決まってお昼休みに日向ぼっこするようになったの。」

「ほうほう。確かに、今こうして一緒にいるけど、結構落ち着くね。」

 日向が私の話に耳を傾け相槌を打ってくれる。普通の人が聞いたらきっとこの話は退屈で仕方ないであろう。それでも彼は嫌な顔1つせずに楽しそうにしてくれた。

「でしょ。中学の頃も相変わらずこの趣味が辞められなくてさ...友達を作ることもせずにずっと1人で日向ぼっこしてた。そしたらさ、クラスの子から変なあだ名付けられちゃって。」

「.....変なあだ名?」

「そうそう。あ、別にいじめられてたとかじゃないの。...変わってるって距離を置かれていたとは思うけど。」

「あぁ、いじめじゃないなら良かった。...で、そのあだ名って?」

「1人で日向ぼっこしてるから、''日向ぼっち''」

「日向ぼっち...」

「そう。上手いな、って思ったの。」

「感心する所かなそこ。」

日向はそういい、苦笑いした。

「けどさ...今こうして、僕と2人でいるから


 ''日向ぼっち''は卒業だね。」


 日向がこちらに向かって微笑んだ。君のその優しい笑顔を見て、ドクンっと私の体内から音がした気がした。




 晩御飯を食べ終わり、私は自室で1冊の日記を開いた。記憶喪失になってから毎日付けるようにしている。通院している病院で今日あった出来事をきちんと書くように、と言われたからだ。

「日向ぼっちは卒業...か。」

 日記を書いてる途中、日向から言われた事を思い出す。

「ねぇ日向、君はまた一緒に私と日向ぼっこしてくれる?」

 本人には聞けなかった事を今ここで言葉にする。聞けなかった、というより聞かなかった。

「聞いたらきっと、約束するって言ってくれるもんね。けど約束は出来ない...」


 だってまた、忘れてしまうかもしれないから。


書き終えた日記を閉じて私はベッドに入り目も閉じた。例え今日の事を忘れてしまったとしても、明日の君はまた私と一緒にいてくれるかな。

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