第12話 君のもとへ
部活動対抗リレーを始めるアナウンスが流れ、私たち4人はそれぞれの位置に着いた。
このリレーにはルールがあり、走る順番は女子、男子、女子、男子の順でと決まっている。帰宅部での活動の中で走る順番を考えた結果、私、日向、美姫、晶の順で走る事になった。
「第1レーンからバスケ部、バドミントン部、陸上部、テニス部、.....帰宅部です。」
放送部の選手紹介により会場が少しざわついたと同時に、第1走者の私へと注目が集まる。
「や、やめてくれ...」
私はそう呟き、俯いた。
「位置についてー...よーい...。」
ピストルが鳴り、私たちは走り出した。
先の徒競走とは違い、やはり現役運動部の足の速さには敵わないな。私の前には2人の女子が走っていた。...あれ、私は今3位?
「春ーーー!!」
私の向かう先には私の名前を呼び、大きく手を振る日向の姿があった。日向は走る私に向かって
「春!!凄いよ!頑張れ!もう少し!!」
とたくさんの声援を送ってくれた。
「もう少し...早く...」
早く...君のもとへ.....。もっと、足が速くなりたい。あの頃以来、またそう思う日が来るとは思わなかった。
「春ちゃん凄かったね!!運動部相手に3位だったよ!てか最後1人抜かして2位に上がってたでしょ!!」
部活動対抗リレーが終わった。結果はと言うと、私たち帰宅部は最下位だった。
「美姫も頑張ったね!走ってくれてありがとう...!」
私は美姫にお礼を言う。
「...あたしと晶、これほんと何の罰ゲーム?って感じなんだけど...」
詳細を言うと、私が2位で日向へ、そして順位を保ち日向が美姫へバトンを渡した。美姫は2位でバトンを受け取ったがあっという間に後ろにいた選手たちに抜かされ、どんどん差をつけられてしまったのだ。ほぼ1周の差をつけられたまま晶へバトンが渡り、晶は悪い意味で独走状態だった。「恥ずかしいから見ないでくれ〜!」と晶は赤面しながら1人寂しくゴールし、ある意味1位の陸上部より目立っていたのだ。
「けど楽しかったっしょ?みんなで走ってよかったでしょ?」
日向の煽りに美姫は冷めた返事をしていた。
「...春は楽しかった?」
美姫は日向を差し置いて私に質問する。
「...うん!すっごく!」
「じゃあ...走ってよかったかな。春。かっこよかったよ。」
「ありがとう。」
日向は解せぬ。とぼやいていた。
「あの...高井さん!」
ふと声がした方を振り向くと、私の知らない男の子が2人がそこに立っていた。
「あぁ、佐藤。何?」
「高井さん...RINE交換してくれませんか?!」
「高井さ〜ん、こいつ高井さんの走ってる姿みて一目惚れしたんだってよ〜。」
「ちょ、お前は黙ってて!」
どうやらこの2人は美姫のクラスの子みたいだ。佐藤くんとやらが美姫に連絡先の交換をお願いしている。
「えー...あんな姿で?」
「一生懸命走ってる姿にすごくドキドキしました!」
「あー...ごめん、そうゆうのだったらあたし、彼氏がいるから。」
美姫は申し訳なさそうに断っていた。
「...そ、そっかー!いやごめん!忘れて!」
「高井さん美人だもんね〜絶対彼氏いると思ってたよ〜。」
「お前絶対いないとか言ってただろ!!」
佐藤くんとそのお友達がギャーギャー言い合っていると「安藤さん。」と背中から声をかけられた。
「安藤さん!あんなに足速かったんだね!かっこよかったよ!」
「あ、ありがとう...。えっと...」
「ごめん急に!普段話さないもんね!」
同じクラスだと思う男の子が私を褒め始める。最初は運動部じゃないのがびっくりという話だったが、ギャップがあるね!などと段々話の方向がおかしくなっている気がした。
「あ、ごめんいっぱい話しちゃって!てかクラスのグルRINE入ってたっけ?交換しようよ!招待送るから!」
「あ、あの、えっと...」
「春!向こうでみんなで写真撮ろ!美姫も行くよ。」
私がクラスの子への返答に困っていると日向が私たちの間に割って入り、私の腕を引っ張った。私との会話を日向に邪魔されたクラスの子が何か言いかけていたが、日向は構わず私を連れてそそくさと歩いていった。
日向のその反応に、少しだけ、ほんの少しだけ.......嬉しくなってしまった。
「日向ちゃん!春ちゃん!美姫ちゃん!こっちこっち!」
「あ、晶ママこんにちは〜!」
晶のお母様がスマートフォンを片手にこちらへ向かって手を振っていた。
「こんにちは美姫ちゃん!春ちゃんと日向ちゃんも!いつも息子と仲良くしてくれてありがとうね〜!」
「母さん!俺らの事撮って撮って!春ちゃん、日向、美姫!並んで並んで!」
晶が私たちに手招きする。私たちは横に並んで晶のお母様の方へ笑顔を作った。
「はーい!こっち向いて〜。いくよ!帰宅部の順位は〜?」
5ー!と手のひらを見せてこの日1番の笑顔を写真に収め、私たちの体育祭は終わった。
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