第11話 おそろいのピースサイン

 ――''プログラムNo.3。2年生による徒競走です。''

 本日は陽キャ達が待ちに待った体育祭。少しばかり空が曇っているおかげか本格的な暑さはなく、熱中症にならずに済みそうだ。

 私が出場する徒競走がいよいよ始まる。各クラスの50m走の計測タイムが1番速い人は第1走者、2番目に速い人が第2走者という組み合わせで5試合ずつ、女子、男子の順で行われる。つまりクラスの徒競走の出場者で1番タイムが遅い私は第5走者にあたる。

「位置についてー...よーい...」

 第1走者、第2、第3...と次々にレースが終わってゆく。自分のクラスの子の顔を覚えていないので、今自分たちが勝ってるのか負けてるのかは不明だ。

 前の試合が終了し、いよいよ私が走る番がやってきた。

「位置についてー...よーい...」

''パァーーン''

スタートの合図であるピストルの音と共に駆け出す。走って、走って、とにかく走った。

「.....あれ...?」

 ふと前を見たが誰もいない。そのままゴールテープを切った。

「...ハァ、ハァ。」

 息を切らしつつ後ろへ振り返るとぞろぞろと同じレースを走ってた子がゴールしていく。どうやら私がフライングをして、1人で気づかず走っていた訳では無いようだ。

 自分が1番だという順位に驚きつつ、走り終わった人が待機してる列へ座り込む。もう既に男子の第1走者が全員ゴールしていた。次は日向の番だ。

「位置についてー...よーい...」

 スターターがピストルを鳴らした。6人の男子が一斉に走り出す。男の子はやはり女の子に比べてスピードがあり、あっという間に全員がゴールする。日向の順位も1位だった。さすがは元陸上部、走っている時のフォームが誰よりも美しかった。

「...!」

勝負を終えた日向と目が合う。目が合った日向は私に向かって笑顔でピースサインをし、''お・そ・ろ・い''と口パクをした。

 ...日向の笑顔に胸が疼く。

 私も微笑みながらピースサインを返した。...うまく笑えていたかどうかは分からない。顔が熱い。胸も...少しうるさい。

「...落ち着け、落ち着け、自分。」

 この気持ちは...隠しておかないといけないのだから...。



「ちょっと日向!!話が違うじゃん?!」

「しょうがないじゃないの!希望がなかったんだから!」

 体育祭も後半に差し掛かり、私たちが出場する部活動対抗リレーまであと少し。が、ここで思わぬ事実が発覚した。

「冗談じゃないよ!!運動部と走るなんて!」

「まあまあ落ち着いて...。」

 なんと私たちは陸上部、テニス部、バドミントン部、バスケ部と共に走る事になってしまった。参加希望をした文化部がいなかったらしい。

「まあでもたくさん練習したんだから!勝てるかは分からないけど、勝負にはなるんじゃないかな?!」

 運動部と走るのを嫌がる美姫を日向と晶が宥めている。

「春ちゃんも何とか説得して!」

 晶に声をかけられた。私は美姫の目を見て話し始めた。

「私は...みんなと一緒に走りたい。美姫、一緒に走ってくれる?」

「うぅ...。春まで...。」

「それにさ...どうせビリだから。吹っ切れるしかないでしょ。」

 私の説得に渋々ではあったが美姫は了承してくれた。

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