第8話 ずっと続けばいいのに

 ファミレスでそれぞれが好きな作品について語っていると『天丼のお客様〜』という店員さんの問に対し美姫が元気よく手を挙げた。

「イースタ映えはよかったのか。」

「いいの!あたし実はこういうしょっぱくてガッツリした料理の方が好きなの♡」

 私たちの前では素直な姿を見せてくれる美姫はいい子だ。

お先〜と私たちに一言伝えてから天丼を頬張った美姫はとても幸せそうな顔をしている。

 私が注文したドリアをゆっくり冷まして食べていると、早々に食べ終わってしまった美姫がトレーディング缶バッジを開封していた。

「ああ…これはお取引…これもお取引…」

私の隣でぶつぶつ言っている美姫を他所に、日向と晶はアニメの主題歌の話で盛り上がっていた。

「俺最近ずっとこの曲聴いててさ。」

「あーアニメショップの中で流れてたねこれ!サビが特にかっこいいよね!」

「そうそう!すごいかっこいい!歌えるようになりたいから練習中なんだよね。」

「僕、晶とカラオケ行ったことないな。」

「…。行っちゃう?」

「え?!カラオケ?!あたしも行きたい!」

 自分の前にたくさんの缶バッジを並べた美姫が目を輝かせて2人の会話に入った。

「春も行こ!てかこの後行こ!」

 ヲタクはカラオケに行くお金はあるようだ。



 4人でのカラオケは一言で表すと、凄かった。

 スポーツアニメが好きな日向はその場が盛り上がる曲を熱唱し、ある乙女ゲームが好きな美姫は男性アイドルユニットの曲を歌いながら悶え、晶はファミレスで話していた主題歌の他に失恋ソングなどを歌っていた。

 私は歌があまり分からないので3人が歌っている姿を笑いながら眺め、聴いていた。

「この曲なら春も分かるんじゃない?」

日向がそういうと国民的アニメの主題歌を入れた。

「あはははは!一緒に歌おうよ!」

美姫がマイクを渡してくる。私はそれを受け取り、笑顔で立ち上がった。

私が楽しそうに美姫と歌う姿に、日向は優しく微笑んだ。

 日向と目が合った私は、胸が少し疼いた気がした。



 充実した1日だった。そう思いながら私は自室のベッドに転がった。

「…このままでもいいかもしれない。」

 そんな事、考えてはいけないのは分かる。

「けど…私、贅沢になってしまったんだ。」

 記憶がこのまま戻らなければきっと…。

「だめだよね。…でも…今、幸せなんだ。」

 自分勝手な願望が止まらなくなる。

「今日の事、忘れてしまってもいい。でも…この幸せな時間だけでもずっと続いてて欲しい…。」

 今日みんなで撮った写真を眺める。

「やっぱり、好きなんだよ。君の事が。」

 そこに写っている愛しい君を見て涙を流した。

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