第4話 眠気より食い気

「36ページの3行目を〜…」

 教室の8割が頭頂部を先生に見せている。前の時間の授業でやった長距離走が効いているのだろう。窓の外から流れてくる暖かい風が更に追い打ちとなり、皆がそれぞれの世界へ入り込んでいる。

「安藤。読んで。」

「はい。」

 さっきから私が指されることが多いのは気のせいだろうか?いやきっと教室の8割のせいだ。

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

 李徴子とは打って変わって私の声は届かずに子守唄へと変わる。

 どうやら私の苗字は安藤というらしい。今朝話しかけてくれた掃除当番の子を思い出し、当番表を確認したらその子の名前の隣に安藤という二文字が書かれていた。

「安藤、ありがとう。その次を〜…」

音読を終え席に座る。

 お腹がなりそうなのを我慢しながらまだかまだかと時間が過ぎるのを待っていた。みんなが疲労で力つきてる中私1人だけが飢えで倒れてしまいそうである。


 キーンコーンカーンコーン…

 4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 本当にこれは学校の七不思議に入っててもおかしくないのではと思うことなのだが、このチャイムがなると皆が一斉に顔を上げるのだ。

「春ー!迎えに来たよー」

 声がした方へ振り返ると廊下には美姫、晶、そして日向が私に手を振っていた。

「い、今行く…!」

 ああ、私、この3人と早く話したかったんだ。もちろんお腹が空いていたのには違いないが、4人でいる時間が恋しかったんだ。

 今朝教室の前で美姫と別れた後、教室の中で私に話しかけてくれる子はほとんど居なかった。いつメンがこんなにいい子たちばかりなのだから!と少し期待していた自分に落胆する。

「お待たせ。」

「じゃあ…いつもの場所行こっか。春ちゃんは覚えてないよね…日が当たって、暖かい所なんだ。」

 晶の言葉を最後に、私達は2組の教室を離れた。



「安藤さんって他クラスに仲良い子いたんだ。」

「ねー。下の名前春ちゃんって言うんだね。」

「それな?知らなかったよ。」

「けど春ちゃんって呼ばれてるところ見たの初めてじゃない?」

「んー、それすらも知らん。」

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