第23話 親の顔が見てみたい

仕事が終わり、3人で会社から出て、春の家へと向かう。


「いやー、今日も疲れたッスねぇ!こんな暑い日は1杯飲み行きたいッスよー」

そう言って南は横目で俺らをチラッと見る。



「南くんはまだギリギリ見た目が成人じゃないから、普通にお酒買いに行くと年齢確認されるのが嫌で一人で行けないんでしょ。」

とんでもない勢いで金森は南の心を叩き潰す。



「ぐぅっ…五條さーーーん!金森姉さんが俺をイジメますーーー」そう言って俺に助けを求める南を俺もまた軽く受け流していると、子供が大声で騒いでいるのが目に入った。



子供はダボダボのTシャツに大きいベレー帽を被っている。服のサイズ感と、ベレー帽という子供らしからぬアイテムのチョイスから、実年齢は俺よりもずっと上なのだろうと予測される。




「だーかーら!!俺がやれって言ったらやれよ!俺は何度もこの店に通ってるんだぞ!お得意様だろうが!!」

「いえ、そのようなサービスは当店では承っておらず…」

そう言って30代くらいの店員さんが困った顔をして子供をなだめている。どうやら子供はお客さんのようだ。



「何度言えば分かるんだよ!バカなのか!?」

店員さんが断る度に子供の怒りはヒートアップしていく。どうやら怒りは収まりそうにない。道の狭い店の前で騒動を起こしている為、周りの通行の妨げになっている。



「そう言われましても…」

店員さんは困り果てている。そうこうしていると、



「通報がありましたが、いかがされましたか。」

警察がやってきた。




「この身体のせいで沢山持てないから、コイツに買い物リスト渡して、今すぐここに書いてある物全て俺の家まで持ってこい!って言ったんだよ!なのにコイツは融通が効かないグズで…」

と口から文句が止まらない。




「ってかなんで警察が来てるんだよ!!関係ねぇだろ!!」

と子供が警察官の足を踏む。




「はいはい、ぼく。ここは邪魔だから後で話は聞くね、親御さんにも来てもらおうかねぇ。」

と言うと警察官はヒョイっと子供を抱えてタクシーの方へ連れて行く。



「あ、おい!こら!!放せよ!!!」

子供はそういってバタバタするが身体が小さいため軽々と連れていかれた。



最近はこんな光景をよく見かけるようになった。多分、これは以前もよく起きていた事なのだろう。しかし、あんな小さな子供が、こんな町中で一人で騒動を起こすなんて事がなかったので余計目立ち、目につくのだろう。




「まったく。親の顔が見てみたいもんだ。」

そう言って店員さんは戻っていく。




さっきの子供は実年齢がかなり上のはずだ。子供の外見だからこそ店員さんはそう思ったのだろう。こうなると親は何歳まで責任を取るべきなのだろうか。子供の姿が子供のままなら、ずっと責任を問われ親は呼び出されるのだろうか。




「何歳になっても親は親。年月が経過したら自動的に子育て終わり。じゃなくて子供が中身も成長するまで責任をもて。と言われる時代になっていくのかもしれないわね。」

金森も同じ事を思っていたようだ。




「プライドと年だけ成長して中身は子供のまま。なんて、今までいっぱい見てきましたけど、こうやって実際に見えちゃうとなんか色々考えさせられますねぇ」

そう南が呑気に相槌をうつと



「そうね、南くんが何かやらかしたら、私が親御さんと三者面談やろうかしら。」

と片方の口角を上げながら意地悪そうに金森が言う。



「えぇ!社会人になってもそれは勘弁ッスよー!」

と南が嘆いていると、




着いた。春のマンションの家の前に。



あの頃のまま。情景は変わらない。

ただ1つ、インターホンに壁を感じる。

そう簡単に触れてはならないような心持ちになる。

そう思いながらインターホンに指を乗せる。指が震えるのが分かる。



出てきたらどうしよう。

出てこなくてもどうしよう。



そう思いつつ二人の顔を見ると、ついさっきまで、はしゃいでいたはずが、急に静かになり無言でこちらを見ながら、コクリと頷く。

意を決してインターホンを押す。



ピーン…ポーン……



インターホンの後に残る静けさとは裏腹に俺の心臓の音は激しく音を立てる。

春が出ても出なくても、怖い。

1番ありがたいのは住んでるけど今は留守で会えない。という状況である。



しかし、しばらくしても出てこない。

再びインターホンを鳴らす。



ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン…



出てこない。留守なのかもしれない、と一瞬安堵したところでお年寄りが階段を上り近づいてきたことに気がつく。70代くらいのおばあちゃんだ。

そして、ゆっくりとこちらへ近づいてくると、ペコリとこちらへ会釈し、こう言った。



「そこの家はね、この前、急に引っ越したんだよ。」




やっと静まりかけていた俺の心臓は、瞬間的にドクンッと大きな音を立てたと同時に俺は胸に強い痛みを覚えた。




待ち受けていたのは、最も恐れていた展開だった。

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