第14話 仲良くなろう


・・・



「五條さん、例の課長企画の案通ったらしいっスよ」

朝、出社すると南が駆け寄ってきた。

多少の修正点はあるものの、概ね大丈夫そうだ。



「おお、よかったな!南も色々手伝ってくれたもんな!じゃあこれから課長巻き込んでどんどん進めようか。」



南の背中をバシバシ叩きながら言う。

すると姿が変わった当初より、南が少し大人びた事に気がつく。背も少し高くなったようだ。




「あれ?南、お前……」

「少し大人びたわよね。」

俺が口にしようとしていた事を金森に横取りされる。




「え、やっぱ思います?思います??いやー、日々の努力ッスね!」


南は嬉しそうに笑うと口元の八重歯が見える。

この八重歯に南らしさを感じる。

以前、本屋に通い、日々色々考えて努力していたのを知っているからこそ、こちらとしても嬉しい。




「こうやって南も成長するわけだしさ、課長もこのプロジェクトやってる間に若返っちゃう可能性あるよな?」

ふと思った事を口にする。




「それはそれで良いんじゃない?それまでの間に、少しでもウチの課の成果になればいいんだし。若返ったら、それはそれでウチの課のイメージダウン回避できたって事で。どっちに転んでも良い事にしかならないわ。」


たしかに金森の言うとおりかもしれない。




「でも俺達、課長を巻き込んでプロジェクトやろうって話になりましたけど…課長の事そんなに知らないッスね。」



ポツリと南が言う。

そうなのだ。確かにその通りだ。今までは仕事上の最低限の関わりしかなかった事に気がつく。

ある程度、心を許してもらっていないまま話を聞いても、上辺だけの事しか聞き出せないだろう。





「じゃあさ、まず課長と仲良くなるところからだな!」

俺は立ち上がり、颯爽と課長の元へ向かった。




・・・


「飯野課長。課長のおかげで先日の企画が通ったようですね。ありがとうございます。」



課長メインの企画が通ったのだ。こう課長に話しかければテンションが上がって色々話に華を咲かせられるに違いない。そう思って話かけたのだが…。



今日の課長の表情は普段に輪を掛けて雲がかかっている。




「そうか。」

課長はそう言ったきり俯いている。家で何かあったのだろうか。体調が悪いのだろうか。

こんな時は、どうしたら良いものか。


困っていると




「課長!昼!飯行きましょ!!」

元気に最年少の南が声をかける。



「いや、そんな…」

「いや!上手いらしいっすよ!」


「でも…」

「行きましょ!」


「いやぁ…」

「行かなきゃ後悔しますって!さぁさぁさぁ!!!!」


「わ、わかったよ…」

「いえぇぇえい!!!」



若さが勝った。南がゴリゴリに意見をおした。

こういう時、力業を発揮出来るのは良くも悪くも南の強みだろう。




「じゃあ!昼になったら!皆で一緒に行きましょ!!絶対ですよ!会議とか入れちゃダメッスよ!!」

そう言って南は席に戻っていく。

俺も見習わねば…。そう思いつつ自分も席へと戻った。





昼休み。

俺達は飯野課長含め4人で近くの定食屋へ出向いた。


「ここ、安くて速くて美味いって有名なんスよ!大盛り食べても500円で足りるのはスゲェッス!」



南はテンション高めにそわそわしている。

たしかに大盛りは俺の顔より大きい茶碗に米が盛ってある。凄い大きさだ。




「課長は普段外食が多いんです?」

何気ない会話を振る。




「あぁ。コンビニで買うか、外食だな。」

課長はハンカチを膝の上に敷いて食事の準備をする。こういう几帳面なところに課長らしさが出る。




「お弁当を持ってこられたりはしないんですか?急な会議で買いに行く時間も無い時困りませんか?」


「妻は娘には作ってるんだが、最近は僕に作る余裕がないみたいで。」

課長はハハッと小さく笑う。強がって笑っているのはすぐに感じ取れた。




しまった。落ち込んでいる。カバーしなければと焦って頭に浮かんだ言葉を口にする。




「娘さん受験って仰ってましたもんね。奥様も娘さんの事で頭がいっぱいなのかもしれませんね。」



「そう…だよな…。家族って難しいよな…。」


そう言って更に落ち込む飯野課長。



ダメだ。これは完全に質問を失敗した。ナイーブモードの時の接し方が下手な自分に焦りを感じる。




「奥様の手料理で1番好きな物は何ですか?」

金森が助け舟を出してくれる。




「え…?そ、そうだなぁ…」

突然の質問に驚きながらも照れ臭そうに考え始める飯野課長。




「エビフライ、かな。」

なんだこれ。可愛い、可愛いぞ。

早急にメモを取る。




「なるほど。逆に奥様の好きな食べ物は何ですか?」


金森が続けて質問をする。

んー…と悩んだ末、



「以前住んでいた家の近くに小さな定食屋があったんだ。そこで食べたシチューが凄く美味しくてな。妻も美味しいって言ってよく2人で行ってたなぁ。あのシチューを食べてた時の妻はいつも幸せそうだった。随分昔の話だけどな。」




課長は微笑んでいるが、どことなく寂しそうな表情だ。




「その定食屋行ってみたいです。教えてもらえませんか?」

すかさず俺はこの話題に食いついた。



「別に構わないが…今もやってるか分からないぞ?」



そう言われつつも、課長から店を聞き出す事に成功した。なにか引き出せるチャンスな気がする。俺の勘がそう叫んだ。

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