第9話 ペンダントの成果



無事にペンダントを渡し終え自分の席に戻ると張り詰めていた緊張が解れ、安堵を実感する。

あとは、あのカメラに録画される映像を確認するだけだ。




「その顔を見ると無事渡せたみたいね。」

金森はそう言うと、こちらにチラッと目線を寄越すが。すぐにパソコンに視線を戻す。




「あぁ。無事に渡せた…はずだ。」

まだ下がりきらない心臓の拍動を感じつつ返答する。




「いつでも彼女のカメラで撮影された映像は見られるけど。どうする?」


「…今日1日の仕事が終わったら…確認したい。」

正直にいうとすぐに確認出来るほど勇気がない。仕事終わりに金森と南に一緒に確認して欲しい旨を伝え、仕事に戻る。



仕事がなかなか手につかなかったことは言うまでもない。




・・・



「さて…。」

仕事終わりに金森と南にカフェに集まってもらう。俺の緊張感が伝わっているのか皆どことなく口数が少ないように感じる。





「俺さ。」

重い空気を掻き消すかのように口火を切った。


「こんな風にしっかり人を疑うなんて始めてでさ。しかも自分の彼女。」

ぽつりぽつりと言葉をつむぐ。




「今日、色々今までの事考えてたんだ。春の事だけじゃなくて、人付き合い全般的に。俺、今まで逃げてばっかりだった。」





「真っ向から人と関わるって事して来なかった。何か引っかかる事があったり、衝突しそうだと思ったりしたらすぐ逃げてた。その方が自分が楽だから。でも、違うんだよな。本当に必要な時はちゃんと向き合わなきゃいけないよな。」



2人は俺の顔を見ながら話を聞いてくれている。

「さて、録画されてる映像を確認しようか。」

気合を入れて金森に再生を要求する。




「心が決まったなら見ていきましょうか。」

いつもと変わらず冷静な表情で対応してくれる金森が今は頼もしく感じる。




『再生』




録画されていたのは俺が手に持っていったところからだ。時期に春の姿が映り、春の首にペンダントをかける俺がうつる。




俺と分かれた後、春が向かった先は近くのカフェだった。今日は社外で打ち合わせがあると言っていた。カフェにつくとずっとスマホをイジっている。調べているのは自分の行きたいサロンやエステ、化粧品など。仕事関連というわけでは無さそうだ。




「なかなか打ち合わせ相手来ないっすねぇ。」


南がぽつりと発言する。そう、早送りして見ているのだが全然来ない。カフェに着いてもう1時間は経つだろう。1時間近く春はスマホをイジっているだけだった。




「ここまで相手が来ないなら連絡を入れるか、会社に戻っても良いような気はするけど…」

金森が呟く。自分も同意見だ。




すると突如画面がグラッと下に落ちて真っ暗になる。

「これは…」

俺が疑問を口にしようとすると、



「こんなに周りが急に暗くなる事ないわ。音は聞こえるし。これは机に突っ伏してるんじゃない?」

そう金森から解説される。つまり…カフェで寝てる……?





しばらくすると画面が動く。約1時間程だろうか。どうやら目覚めたようだ。




場所を移動し、会社へ戻る。

後輩だろうか、若い男性社員が映る。


「春さん、打ち合わせお疲れ様です。資料作成しておきました。」


「え、私頼んだっけ?まぁいいや、追加でこれも。」


そう言って春は紙束を渡す。




「え、でも先日5つ頼まれて、まだあと2つ残ってるんで…」

「はぁ?私は今打ち合わせから帰ってきたの!忙しいの!このくらいパパっと出来なきゃ出世なんて到底難しいわよ?」


そう言って、春は資料をその場に置き去る。




そして自分の席に戻るとメイクを直しながら、隣の席の女性社員に愚痴をこぼす。

「あれはダメな男ね。私が頼んだ事もさっさと出来ないの。」


女性社員はチラッと視線を返すが、そうですか。と相槌をうってまた視線を戻す。



「あなたはそんなだから良い男捕まえられないのよ。私はちゃんと、もう出世が決まってる男捕まえてるんだから。将来は安泰だし、景色の綺麗なディナーも連れて行ってもらえるし、さっさとこんなところ辞めて寿退社したいわぁ。まぁ、外見は及第点だけどお金には変えられないわよね。妥協も必要なの。ここ重要よ?」


そう言いつつ唇にピンクのグロスを塗り直す。




「あ、あとね。今日もいつでも彼と会えるように早めに帰るから。仕事よろしくね?私が幸せになれば、あなたみたいな女でも何かおこぼれあるかもしれないよ?」




そう言って、春はメールを転送し始める。

宛先はこの女性社員だろう。




「このメール5件。今日中に返事しといて。私ランチしてくる。」




そう言って春はまた会社から去っていった。



・・・


ここで1度金森は再生を停止した。きっと俺の動揺に気がついたのだろう。


「まだ続ける?」

こちらの様子を伺いつつ金森は質問してくる。




「いや、もう十分知りたい事は知れたと思う。これ以上は時間の無駄だ。」



普段の仕事ぶり、他の社員との関係、そして俺への感情。



今回納得がいったのは、幼い精神年齢が外見に表れたことだけじゃない。



そういえば欲しがる物は高めの物が多かったこと。ファミレスのデートでは不機嫌になられたこともあった。色々と繋がった。




「大丈夫っすか?明日から…どうするんすか?」

南は心配そうにこちらを見てくる。




確かにショックを受けたのは間違いないが、不思議と心の中はスッキリしていた。


「これから…なぁ…。」

少し考えつつ、2人に笑顔を向け



「今晩、ゆっくり考える。とにかく、2人には本当に救われた。感謝してるよ。ありがとう。」



そう言ってカフェから出る。大事な事に気がつくことが出来た。俺達は夜空を仰ぎつつ帰宅の途についた。

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