第8話 秘密を探れ
そんな俺の様子を見た南と金森は不思議そうにこちらを見る。
「あら、今日もまた懇親会あったの?こんな頻繁に珍しいわね。」
「相手が俺みたいに未成年になってたりとか無いんすか?こんな状況だと懇親会の中止とか全然ありそうっスけど。」
そんな事を口々に言ってくる。たしかに、仕事のせいで断ったんじゃない。断ったのは…
「俺さ、ちょっと色々腑に落ちないというか、納得出来ないというか…色々整理出来てなくて。会おうって気持ちになれなかったんだよな。」
そんな素直な気持ちを吐露する。
二人が顔を見合わせる。
「例えば?」
話を促される。
「春って今までは可愛らしい、純粋な気持ちを忘れていない子なのかなと思ってた。でもそれは俺の前だけだと思ってた。仕事はしっかり定時に終わらせる事が多いし、業務成績も良いし、仲間にも恵まれてるからって言ってた。
でも、今の姿はあんな感じで。確かに少し幼いかもしれないとは思っていたけど、あそこまでとは…。あんなに幼いと精神年齢違い過ぎて仲間もついてこないんじゃないかな、とか俺の中で疑ってしまってるみたいだ。」
二人は真剣な顔をして聞いてくれる。
「こんな風に姿が変わって…本当はあまりに幼いから、罪悪感というか、慣れないせいで受け入れられていないのかと思ってたんだけど。
最近、そういうわけではないのかもしれないって思い始めてしまったんだ。
それから、俺の中では、春の精神年齢があんなに幼いとは思っていなかった。なんであの外見になっているのか理由が分からなくて、自分の中で受け入れられていないんだ。」
「どうしたら良いんだろうな…俺…。」
そんな弱音を吐く。
「それは春さ…ムグッ」
南が何か言いかけたところで金森が南の口を塞ぎ何かを目線で合図する。俺は疑問に思い不思議そうに見ていると
「五條くんの前にいる春ちゃんの事しか見てないからじゃない?」
と金森が言う。
「そりゃ、俺は俺である限り、俺の前の春の事しか知らないよ。」
「じゃあ調べてみたら?仕事してる時の彼女の事とか。」
金森は思いがけない提案をしてくる。
「ど、どうやって…?」
俺は思ってもみなかった提案に驚きつつ質問をする。
「例えば…これとか。」
そう言って金森から渡されたのはペンダントだった。
「こ、これは…?」
恐る恐る聞いてみる。
「小型の動画撮影カメラ。思ったより可愛いでしょ?これを彼女につけてもらったら?」
確かに小型で見た目ではカメラだとは全く分からない。デザインも可愛らしい。
「で、でも…ちょっと良心が傷むというか、これっていわゆる盗撮というか…」
俺が言葉を濁していると
「何が言いたいの?結局はしない理由を見つけて自分の気持ちを誤魔化したいだけでしょ。本心は自分の知らない春ちゃんを知るのが怖いってバレバレよ。」
「うっ…」
さすが鋭い。鋭いというか、俺が分かりやすいというべきなのだろうか。
「さすがだな…」
確かに怖い。知ってしまったら今までの時間が消えてしまうような。自分では気づかない方が幸せだったような。そんな気がしてしまう。
「逆に二人はさ、二人が知ってて俺が知らない春の一面ってあると思う?」
分かってる。『無い』という返事を期待して質問していることくらい分かっている。だが、敢えてその上で質問してみる。
「ここで答えたら成長出来ないっすよ!」
南が意地悪そうに笑って答える。
間違いない。
人には変わるように言っておいて、自分は踏み止まろうとしている。
「…よし。やるか。」
決意する。こうなったらモヤモヤを晴らすしか前に進む方法はない。俺は金森から渡されたペンダントと握りしめた。
そうと決まれば春に会いに行く。春の席へ向かうが今はいないようだ。仕方がないか。と思い帰ろうとすると、
「あーーー!来てくれたの!?」
元気な耳慣れた声がする。
声の正体は探していた春だった。
「お、おう。」
これからカメラを仕掛けようとしている罪悪感で思わず返事がどもる。
「さだくん来てくれるなんて珍しいね!」
嬉しそうに俺に近づいてくる。実年齢と同じ姿だった頃の春と姿を重ねる。3日前だったら、俺の頬は嬉しくて緩んでいたに違いない。
それなのにどうしてこうなってしまったんだろうか。遅かれ早かれこんな事になるのは決まっていたのだろうか。色々な気持ちがこみ上げて来る。
「さだくん?どしたの?」
そう言ってこちらの顔を覗き込む春。あぁ、やはりこれが現実なんだなぁ。そう思いつつ、春に怪しまれないようにペンダントを渡す作戦に出た。
「あ、いや。その…」
罪悪感で上手く言葉が出ない。意を決してペンダントを春の首につける。春は驚いた顔をしてこちらを見ている。
「最近、あまり会えてなかったろ。寂しい思いさせてるかなと思って。これ、お詫び。今度は一緒に選びに行こうな。」
よくも出任せでこんな言葉が出てきたもんだと我ながら感心する。
「え!いいの!?嬉しい!!」
そう言って俺に飛びついてくる。この嬉しそうな笑顔が俺の良心に突き刺さるが、こうしてミッションは無事に終了した。
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