第4話 外見が変わった理由

- 4話 -


翌朝。世間が変わって2日目。

自分の姿は変わっていないので、家にいる間は今までと何ら変わりのない朝だ。



昨日は寝坊してしまったので、教訓を活かししっかり6時に起きることが出来た。

いや、正確に言えば6時前には目が覚めた。昨日の非日常的な出来事があまりにも気がかりで、眠りが浅かったのだ。




一夜が明ければ何か分かっているかもしれない。そう思い心急きつつも支度をし終え、すぐにニュースを見る。




「精神年齢…?」

テレビ、ネットニュース、新聞。どこにもこの4文字の漢字が並んでいた。



姿が変わった子供達や、大人などの身体検査の他、周りからの評価や日常的な生活習慣などを調査した結果。


今回の外見は精神年齢を反映しているものではないか、との事だ。このようになった原因は未だ追求中と報道されている。




誰が、一体、なんの為に…?

いや、それより今後どうすれば良いんだ?

そう不安に思いつつも、頭の中に姿の変わった金森や南、課長が過ぎる。




たしかに普段から冷静に対処出来る金森は同期の中でも頼りになる。同年代というよりは皆を陰からサポート出来るが話しやすい。皆と年が近い姉のような存在だったかもしれない。




飯野課長も、変化を好まず新しい物に否定的だ。昔は良かった、君は若いから。そう言う課長の考え方は確かにまるで祖父にそっくりだ。



南は…言うまでもないだろう。



自分の中でこの報道が腑に落ちていく。

姿が変わった原因が分かっただけでも大きな進歩だ。これからの事は徐々に何とかなるだろう。


そう思いつつお気に入りのコーヒーを飲み干す。




「そろそろ行かなきゃな。」

そう呟き、腰を上げる。


まだ慣れない事も多く戸惑ってる人も多いだろう。そういう時こそミスやトラブルが多くなる。ネクタイと共に気を引き締め、玄関の戸を開けた。



・・・



街中の人もまだ昨日くらいの人数だ。人は少ない。会社の中も同様だった。


1日では身なりの支度もままならないだろうし、今日原因が報道されたばかりだ。無理もない。




「おはよう。報道見た?」

金森に挨拶をしつつ声をかける。やはり金森は昨日と同様大人びている。



「見た。どこも【精神年齢】の4文字でいっぱいよ。何回見たことか。」

金森は黒く長い髪の隙間から流し目でこちらを見つつ返答する。



なるほど。以前も同様に、こんな視線で俺を見てきていたが、この外見だと、よりしっくりくる。今朝の報道が確信へと導かれる。




「でもあの報道を受けて外に出られる人、出られない人、分かれるんじゃないかしら。」


確かに幼いと言われて嬉しい人もいれば、落ち込む人もいるだろう。無事、世間に出られるようになるかは、その人の気の持ちよう次第になるかもしれない。




「俺は落ち込んだ側っすよ…。俺そんなにガキっスかねぇ。」


そう言いつつ、髪を黒髪に戻した南が出勤してきた。なるほど、たとえ髪を黒に戻しても外見が高校生だと結局は高校生にしか見えない。




「いや、お前はそのままだろ…」

落ち込んでる本人を目の前に思わず心の声が漏れる。


むしろ本人はその自覚がなかったのだろうかと少し驚きを感じる。俺の言葉に完全に同意するように、金森もまた頷く。誰も南をフォローしようとしない。




「えぇ!皆俺の事そんなにガキだと思ってたんスか!?ちょっと年下なだけなのに!?」


「いや、実年齢は少し年下だけど、精神年齢は、その外見のままで違和感全然ないぞ。」


金森も同様の意見だった事に安心し、歯に衣を着せることなく俺は本音を告げる。




「クッ…クソぉ!マジかぁ!俺も早く大人になりてぇ!って……あれ?この外見って成長するんスかね!?」


確かにそうだ。1日やそこらで成長は難しいかもしれないが、身体も成長するのだろうか。この外見のままの可能性もあるのだろうか。

そう悶々と考えていると、



「成長はするでしょ。昨日一緒に見たニュースに出てた子供達は成長が遅い子、急成長していた子がいたけど、皆ある程度は年齢と共に成長していたわ。南くんも精神年齢が成長すれば、それと共に外見が変わるんじゃない?」

そう金森は冷静に分析する。




なるほど。確かにその通りだ。しかし…

「精神年齢を成長させるって…どうすれば良いんスかね…?」

南が空を見上げつつ問う。

そう、そうなのだ。具体的に方法を問われると難しい。何かすれば良いってものではない。




「大人になりたいなら、それこそ、そこは自分で見つけないと。でも自分で考えて行動出来るか、とか相手や周りの事を考えつつ行動出来るか、とかそういう事なんじゃない?」

と一般論を述べる金森。



しかし確かにそうかもしれない。何事もそうだが、口で言うのは簡単だが、その『一般論』が出来るというのは案外難しいことなのだ。




「そうッスね…ちょっと色々考えてみます…。」

難しい顔をして悩みながら南は自分の席に戻っていった。



「ちょっと厳しく突き放しちゃったかしら。」

金森が自身の言動に少し反省しつつ気遣う。




「いや、あのくらいの方が南は成長する。心はまだ高校生かもしれないが、根は素直なやつだ。それこそ伸びしろがある。今までは外見が成長してたからこそ、自身の内面の成長の遅れに気がついてなかっただけだ。意識して磨けば、ちゃんと変われる奴だ。」



俺は確信をもって返答する。

自分の信頼している後輩だ。絶対に変われる。

俺を返事を聞いて金森もそうね、と微笑みつつ力強く頷いた。

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