第3話 実年齢と外見の関係
- 3話 -
「疲れたな…」
思わず溜め息と共に唇から弱音が零れ落ちる。
その日は一日中慣れないことばかりで落ち着かなかった。
今も目の前の喫煙所で小学生くらいの男の子と50代くらいのサラリーマンが一緒に煙草を吸っている。普段なら信じ難い光景だが今なら何でも受け入れられる気がした。そのくらい精神は参っていた。
昼休みの食堂では1kg以上のカレーライスをまるで飲み物のように平らげるお爺さんを見かけ、それを見た社員達はまじまじと見ていた。
どうやら飯野課長が言っていた通り、外見は変わっても体質は変わらないらしい。
外見だけでなく声も変わっているので、電話対応も一苦労だ。いつも慣れてる声とは違うので、声に気を取られて会話の内容が頭に入って来ない。おかげで電話だけでなく会議や仕事にもなかなか身が入らなかった。
そして、自分のように全く変わらない人もいるというのも不思議だ。一体何を基準に姿が変わっているのだろうか。
・・・・・
そう思っていると春に出会った。
「あ、さだくん!今日一緒に帰ろ!行きたいお店があって〜」
疲れているからだろうか。全く春の会話が頭に入って来ない。あれだけ愛おしいと思っていた感情がどこか薄れているような気がした。
それより、この子と距離を取らなければ自分が通報されるのではないか、という不安すらあった。
「春、ごめんな。ちょっと俺色々あって今日疲れてるから一緒には帰れないんだ。また埋め合わせするから。」
「えー…しょうがないかぁ。今日は仕事も片付いたし早く帰れそうだったのに。」
むっとした表情になり不機嫌になるのが分かる。
なんだろう。この外見にこの表情、この性格。まるで違和感がないような…。いやいや、それは言いすぎか。
俺の前では甘えてくれるが仕事中は周りの人からも信頼もあって仕事も早いのだと春は自慢気に言ってきた事を思い出した。自分の彼女が周りから信頼されてるのは、彼氏の自分としても誇らしく単純に嬉しい。
・・・・・
そんな事を考えながら自分の席についた。
すると隣の席に座っていた金森が
「この外見になって、より仕草や行動がしっくりくるような気がする。」
そう呟いた。
俺は考えていた事を見透かされたような気持ちになり、慌てて金森の方に視線をやり、続きを促す。
「だって、南くん来た時に思わなかった?あんなに奇抜な格好だったのに全然違和感なかったじゃない。」
確かにそうだ。
チャラチャラしてる性格ではあったが、外見こそ真面目だったから『社会人らしさ』はあったものの、今回の金髪高校生になって、より『彼らしさ』が出たような気がする。
「じゃあなんだ、これは内面が表れた外見ということか?そしたら年齢まで変わった人達はどう説明がつくんだ?」
俺は食い気味に金森の見解に聞き入る。
「そこは分からないわ。でも、これ見て。」
そう言って金森はパソコンの画面を見せる。
そこには長い間確固たる有名人という地位を確保している人達の現在の姿が映されていた。彼らに共通しているのは…
「昔から変わらず活躍してる人達、若返ってると思わない?」
そうなのだ。若すぎるのではなく、いわゆる1番活躍していたエネルギー溢れる『現役時代』の姿になっている。
「うわ、今も精力的に活躍してる人は当時のままの姿なんすね。」
後ろから、ヒョコっと顔を出して覗き込んできた南がいう。
「それでね、こっちも見て」
見せられたのは老人ホームの様子や、病院の様子。人工呼吸器が繋がって明らかに病気になっているだろうという人々の中にはご老人もいれば10代くらいの人もいる。
「身体の機能は自分の年齢に伴って成長もするし衰える。でも外見には反映されないっていうことが明らかになってるわよね。」
金森が画面に真剣な眼差しを向けながら呟く。
そして画面は病院の別の場所へと移る。
産科、そして小児科だ。
産まれたばかりの赤ん坊は、皆変わらず年齢通り赤ん坊の姿だ。そして小児科でも外見にはあまり大きな差はない。
続いて小学校。小学生の中にはチラホラと同学年より大人びていたり、成長が止まったかのような幼い生徒もいる。
その年齢と不釣り合いな外見の生徒の割合は高学年になるにつれて増えていった。
「成長するにつれてどんどん年相応じゃない人が増えてますね。」
俺は怪訝そうに言葉をつむぐ。
「でも、これだけ大規模に起こってるし、世間はかなり騒いでる。私達だけでもなんとなく傾向が掴めてるんだし、理由が明らかになるのも時間の問題ね。」
そう言って金森は画面を閉じる。
「それまで南くんはお酒禁止よ?変に未成年が居酒屋に〜とか言って警察に連れて来られたら困っちゃうわ。今は持ってる免許証とも顔が違うでしょうし。」
大人びた金森が南に告げる。
まるで先生が生徒を叱っているようだ。
「えぇ!そりゃ無いっすよ!」
「でも、あなたがちゃんと成人しているって証拠はあるの?その外見で居酒屋に行ったら、たとえ身分証を出しても、お父さんの持ってきたの?って言われちゃうでしょ。」
金森が正論を振りかざす。
「うぅ……」
ぐぅの音も出ず、なにも言い返せない南はしょんぼりしている。
「まぁ、無事飲み行ける方法が分かったら俺が連れて行ってやるから、それまで我慢しろ。なっ。」
そう言って南の肩を叩く。
「絶対っすよ!?約束ですからね!?」
南の悔しそうな顔を横目に、この非現実的な現実を受け入れ、前に進もうと決意が出来た。
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