第53話 奥の手、使いました

『ホテルのロビーに入りました。』


グループのチャットルームに通知が入った。


『了解、健闘を祈る。』


友香が即座に返信する。

歩海が真成君と約束したのは6時前。

まだ時間があるのに、早すぎない?

待ち切れなかったのかしら。


『来ました。これからチェックインして部屋に入ります。』


添付されて来たのは、通路を歩く後ろ姿の真成。

本気で実況を始めたのね。

しばらく間が空いて、次に通知が来たのは三十分ほど後で。


『奥の手、使いました。今義兄はシャワールームです♥』


同時に送られてきた画像は、下手くそな字で書かれた「なんでもいうことをきく券」?


………………………………………これが、切り札?

参考にならないじゃない!



※※※※※※※※※※



早く着きすぎてしまった。

だって、行くとこ無いんだもの。

仕方なく、ロビーで過ごす。

意外と人の出入りが多くて、落ち着けなかったりする。


『ホテルのロビーに入りました。』


作ったばかりのチャットルームに、通知を送る。

間髪入れずに『了解、健闘を祈る。』と友香から返ってくる。

まさか、あの二人とも、チャットルームに張り付いてないよね?


時間ピッタリに義兄が来た。

いつも通りだわね。

性格は変わらないわね。

何故に私だけ忘れられるのよ!

立ち上がって、軽く手を振って、義兄に合図を。

二人揃ってチェックインカウンターへ。

兄が宿泊名簿に署名し、私が隣欄に『妻 歩海』と書いてみた。


………………………………………否定されなかった。

少しは、望み、有るのかな?


ルームキーを受け取り、ホールを抜けてエレベーターのボタンを押して義兄と顔を見合わせる。

ドアが空き、同乗者もなく降りる階と閉ボタンを押して密室に。

降りる階でドアが空き、通路を歩く義兄の後ろ姿を撮影してコメントを付けて送信。


『来ました。これからチェックインして部屋に入ります。』


即時既読になった。


待ち構えているのね。

このまま実況しようかしら。

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