第40話 友達 ③

『友達』としてやり直す提案は、歩夢に拒否されてしまった。

逆に、許嫁として、婚約者として一緒に暮らすことを決定事項として彼女から伝えられた。

双方の両親祖父母からの了承は取付け済みだった。


『私が一緒に居て思い出させてあげるからね!』


退院の見通しがついて、最初に彼女に言われた言葉。


リハビリをしながら迎えた、退院の日。

その前日に、僕は優希を呼んで相談した。

現状、歩夢の事は他人としか思えなくて戸惑っていることを。


『歩夢ちゃんの真成への思いは本物だからな?それは、きちんと受け止めてやったほうが良いからな。ただ、真成の正直な気持ちや感情は常に伝えないと駄目だぞ。誤解を招くからな。わからないとか、知らないとか否定的な言葉は出来るだけ控えような。』


退院して戻った、自宅ではなくて歩夢と一緒に暮らすために用意された2LDKのマンション。

二つ並べられたベッドに、僕は引き攣った笑顔で歩夢に尋ねた。


『本気なのかな?』


『勿論!もう、一人にはさせないわよ?』


他人にしか感じられない以上は手を出すようなこともなく、ただお話をしながら寝落ちするまで色々な事を話し続けた。

主に歩夢の一人語りだったけど。


真成の許嫁としてお嫁さんになれると決まって嬉しかった事。

一緒に遊び、お医者さんごっこなど、えっちい事をした話も。


最近まで一緒にお風呂に入っていたことも。

それなのに、全く手を出して来なくてがっかりした事も。


いっぱい、何度も、同じ話を、繰り返し繰り返し。

僕の記憶に上書きされるように、いつまでも何度でも。


そんな、ある意味歪な日常が進んでいったある日、僕達は突然の破局を迎えたのだった。


僕が夜中にふと目覚めると、隣のベッドには歩夢が居なかった。

勿論、ただ目を覚ました彼女が台所で水を飲んでいただけなんだけど。

僕は、パニック状態なって泣き叫び始めてしまった。

慌てて戻って来た歩夢にしがみついてしまった僕を、彼女は受け入れられなかった。

僕にはいやらしい気持ちなど全く無かったのだけれど、しがみつく僕を振り払って逃げ出してしまったのだ。

無理のない事なんだけど、顔付きや表情や容姿、体格がまるで別人のようになっていた僕のことを耐えられなかったんだろう。


彼女自身もショックだったようでしばらく別の部屋になった。


不思議なことに、僕は一人で寝始めると目が覚めてもパニック状態にはならなかった。


それを聞いて、彼女も考える所があったようで二人の距離が少しずつ離れていくのが僕にも感じられた。

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