第16話 案内

『タワマンの中でも、一番狭い間取りの部屋だから心配要らないからね?』


本当に、本当に焦りました。

駐車場にレンタカーを止めると、目の前には文字通りの見上げるような、タワーマンション?


心配要らない?何の冗談でしょうか?

いえ、冗談ならどれ程良かったことか!

今までの、別の意味での焦りが全て吹き飛んでどっかへ行ってしまいました!


車から降りて、エントランスホールへ向かいます。

トランクは持ってもらいましたが、バッグには下着が入っているので自分で運びたかったのに強引に奪われてしまいました。

本当に、親切な彼は、無意識に恥ずかしいことをしてきますね?


震える指先で、入口のセキュリティロックを解除しました。

こんな豪華なエレベーターには乗った事がありません!

エレベーターを降りた先の共用廊下も、まるでホテルのようです。


手先が震えて、鍵穴にさっき預かったルームキーが刺さりませんから!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




桜井さんに非常時の出口を説明してからドアロックを解除してもらって、玄関と廊下だけは人感センサー付いてるからそれ以外のスイッチを説明してまわります。


「部屋はこちらを使ってね!」


ドアを開け放ち、トランクと鞄を運び入れます。

桜井さんを招き入れてスイッチやコンセントの位置を教えてまわります。


「ベッドと布団と枕は、シーツとカバーはちゃんと洗濯してあるからこのまま使ってね!僕が何回か使っただけだからいいよね?」


「………………………………はい?」


やっぱり疲れてるのかな。元気無いな。


「お風呂は、スマホアプリで出先から操作出来るからもう入れるよ!先にどうぞ。明日にでもアプリ入れてもらって使い方教えるね。風呂上がりのドリンクは冷蔵庫のをご自由にどうぞ!遠慮は要らないからね?」


「…………ありがとうございます………」


「部屋のドアは鍵が掛からないんだけど、いいよね?許可なく開けたり入るようなことはしないから安心してね!」


「…………はい、大丈夫です…………」


あれ?ホントに?大丈夫?何か気になる所でもあるのかな?

今日はもう遅いから、明日相談しようかな?


「…………お風呂、先に頂きますね………」


「シャンプーとリンスとボディソープは使って良いからね!足りないものが有ったら、明日一緒に買いに行こうね!タオルは棚にあるのを使ってね。使い終わったら、隣のランドリーの籠に入れておいてね。」


桜井さんがお風呂に入っている間に、メールとラインをチェックします。


あ〜、義妹と幼馴染と後輩からたくさん来てるし?スタンプだけ送って返事は明日にしようっと。

友香と由利子さんと杉田さんには今日、ちゃんと返事しないとねっ?


スマホで返信を打ち込んでいると、


「………お先にお風呂頂きました。おやすみなさい。」


「は〜い、おやすみなさい。明日から宜しくね?」


返信に集中していて振り返らずに答えてしまったけど、もう時間も遅いから改めて挨拶しなくても良いよね?

義妹や幼馴染姉妹にするみたいに、ベッドに突撃して布団に潜り込んでおやすみなさいしたら、嫌われるよね?

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