第14話 合鍵

「………あの、良いのですか?私で?しかも、即決で?」


敢えて、『しかも、異性の私で』とは言わなかった。いえ、怖くて言えなかった。

今までの彼の態度から、言っても気が変わることは無いと確信できたが、この機会を逃すわけにはいかなかったから。


それに、彼にならルームシェアで同居中に何かされても後悔しないと思えたから。

それ以上に、期待する自分に気が付いてしまったから。


『一緒に食事して合わない人とは、一つ屋根の下では暮らせませんからね?』


それって、『告白』では無いんですよね?

ルームシェアだけではなくて、一緒に食事もしてくれるって事ですよね!

勘違いしそうなんですけど!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「はい、合鍵ね!」


コーヒーを飲み終わって、ポケットから鍵束を取り出して合鍵を桜井さんに差し出すと、恐る恐るという感じで左手を上げてきたので掌の上にそっと優しく置いてみた。


「ひあっ、あっりがとうございますっぅ?」


指先が少し掌に触れたら、低い声が上ずってしまいました。チョット、可愛いかも?

恥ずかしがりやさんなのかな?


あっ、いけないいけない、さっきからおかしな気分になりそうだ。

どんなに可愛くても、彼は、桜井さんは、


あっ、桜井さんが男の娘だったら、有りかも?


駄目だ駄目だ!自重しないと。


「それじゃぁ、改めて宜しくね!」


「はっ、ふぁっいっ………」


手を伸ばし、握手を求めると、恐る恐る右手を差し出す桜井さん。

白くて綺麗な指先だな?

握りしめると柔らかい感触。

外見だけでなく、手先も

このまま、ずう〜っと握りしめていたら嫌われるかな?程々にしておこう。


レンタカーを借り出し、桜井さんの仮の住処だったアパートへ。


「手伝おうか?」


「いえ、トランクの荷物は広げてなかったから小物とテキストを纏めるだけですぐに済みますので待っててください!!」


焦ってるのかな?

拒否されてしまった?悲しい。

見られて困る物でも有るのかな?

誰でも一つや二つくらい有るよね?

僕は無いけど!


ホントに直ぐに、トランクとカバンを引きずるように玄関から出てきた桜井さん。


トランクだけ受け取り運び、レンタカーのハッチを開けて積み込み、


「さあ新居?へ、レッツゴー!」


助手席の桜井さんは、何故か急に黙り込んでしまいました。お顔が少し赤いんですけど、大丈夫かな?

僕と食事してて緊張して疲れたのかな?

今日はもう早く休んで、明日の朝は美味しい朝食でも用意してあげましょうかね?


「あっ、明日の朝ごはんが何もないや!桜井さんは、パン派?御飯派?途中に深夜営業してるスーパーあるから寄っていくよ?」

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