第10話 学長室にて

「学長様、ただいま参りました。」


医務室で渡会君と泣く泣く別れて、訪れた学長室。


「友香よ、誰もいない時は、学長はよせ。」


「学内では、けじめをつけましょう、お祖父様?」


「ところで、なんだその髪と格好は?まあ、似合ってはいるがな?」


「イメチェンして大学デビューしようとしたのですが、失敗しました。」


「イメチェンだと?で、失敗とは?」


「ええ、実は、信じられないことに渡会君に見破られてしまいました。ほんの一時ひととき一緒に過ごしただけで、この姿が仮のものだと。」


「ほう?」


「良ければ、教えていただけますか?お祖父様の事ですから、もうお調べになっているのでしょう?渡会君の事を。」


「相変わらず鋭いな?」


「誰に似たんでしようかね?それよりも、彼のことですが、咄嗟の判断力と身体能力、あの佐々木を相手にしての胆力、そして言葉の節々から感じられる地頭の良さ、私の仮の姿を一瞬で見破った観察力、ではないですか?入試の成績も上位なのでは?」


「我が校の奨学金と給付金を辞退してきおったぞ。」


「それほどですか…………」


上位だと予想はしていたものの、首席か次席とは!


「地元の財閥から支援を受けているようだ。奨学金と給付金は、真に必要としている者にと彼は言って辞退したそうだぞ?この事だけで、人間力も素晴らしいと分かるな。その気になれば、学費と生活費の二重取りも出来たというのにな?

彼が首席で、一緒に入学した財閥の跡継ぎが次席だったそうだ。」


「跡継ぎの姿が見えませんでしたが?」


「父親が急病で、急遽跡を継がなければと退学届が出ておるが、私の一存で休学にしてある。これ程の才能をみすみす失うのは惜しいからの。これから渡会君を通して説得出来ればと思っておる。跡継ぎの父親が奇跡的に回復して復帰しないとも限らんからの。」

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