第58話 同じ思いで。
大内さんのおかげかどうかは不明だが、その後はなにごとも起きずに、校外学習は進行してくれた。
夕方を迎え、駅前に全体で集合したのち解散となる。
さすがに懲りたのか、そこでも、赤松が俺になにか言ってくることはなかった。
同じ電車に乗って、鉢合わせても面倒くさい。少し時間をずらしたのち、俺は梨々子と連れ立って家へと帰る。
暑い京都を、燦燦と降り注ぐ太陽を浴びながら歩き続けたのだ(しかも、お土産まで抱えて)。普段部活もしていない俺には、かなりの負荷だった。
梨々子も来なかったうえ、お姉は『朝まで限界飲み会』とメッセージがあったので不在だった。
出前でさっと晩ご飯を済ませたのち、俺はすぐに部屋へ戻りベッドに崩れこむ。
身体は疲れ切っていた。が、心の方はと言えば、とても眠りにつけるような状態ではなかった。心臓が熱く、騒がしい。
その原因は、たぶん大内さんのせいだ。
と言って、もちろん彼女の変人的な奇行に心を奪われ恋心でメロメロということでは、もちろんない。
『ひなたくんが、いえ、みやちゃんと二人の愛がうちに勇気をくれたんです!』
なんて大内さんが今日発していた言葉が脳裏によみがえる。
彼女が俺たちのチャンネルの1ファンとして発してくれた様々な発言が、心をじりじりと焦がしていた。
身近にいる人が、俺たちと知らず、あれだけ熱烈に応援してくれている。
その事実は登録者が何人増えるよりも、俺の中で大きいものがあった。
すっかり眠気もなくなった俺は天井を眺めているのをやめ、起き上がる。
それでもまだ落ち着かず、美夜に連絡でもしようかと思いスマホを掴んだ時、ちょうど彼女から着信があった。
出てみれば、美夜も俺と同じく興奮が冷めやらない状態らしかった。
受話器の奥で、彼女はこらえきれなくなったみたいに、うー! とか、あー! とか声をあげる。
乗せられて、俺も同じく声を出してみたりする。
このほとぼりを、冷ましてはいけない。
その思いは同じだったらしい。
「なんというか、やる気を持て余してるよ、今。一人じゃ落ち着かないんだよね」
「分かるよ、それ。俺も、なにかやらなきゃって思いになってる」
「やろうよ、じゃあ! 明日は休みだし、思う存分さ。ね、今からそっち行っていい? 編集とかネタ考えながら、ちょっと話そうよ」
俺は、それをすぐに受けた。
時刻すでに8時すぎ。この遅い時間から会うのははじめてのことだった。それも考えてもみれば、今家には姉もいないので、二人きりだ。
健全な男子高校生の思考をしてしまい、勝手に落ち着かなくなる。
無駄に部屋を片付けながら、
「落ち着け、俺。そう、これはビジネスのためだ、細川さんはそのためにくるんだ」
呼吸を落ち着け終える。
チャイムが鳴って、迎えに行けば、パーカー姿、少し恥ずかしそうに俯く美夜がそこには立っていた。
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