第50話 こういうのを恋人っぽい行動というんじゃない?


「じゃあ、ひなくん、どこにいるのかと、なんのお土産買うのか逐一報告してね」

「お土産も? 心配しなくても三千円超えるほど使わないっての」

「そうじゃない。遥姉に買うお土産、被ったら困る。というか、あたしはもう決めてるから、送っておいていい?」


梨々子が言うのに俺が頷くと、早速スマホが震えた。


ちょうど細川さんから


『楽しみだね〜、楽しみすぎてちょっと早いのに乗っちゃったよ』


なんてメッセージが来ていたが、梨々子の手前、一旦スルーする。


送られてきたメモを見れば、きっかり3千円分のお土産リストであった。


一円のズレもないあたりが、梨々子らしい。俺には理解できない感性だ。


「残り2千円は向こうで使うから残しておいた」

「ここまで無理に5千円に抑える必要あるか?」

「うん。ルールだから」


幼馴染の行きすぎた優等生っぷりを再認識して、俺は言葉が出なくなる。


でもまぁ本調子に戻ってきたということか、と納得しようとした時だ。


「……ひっ!」


梨々子から短い悲鳴が上がる。


さっきよくなったばかりの顔色が再び青ざめていく。

何かと思えば、横の席に座っていたリーマンが寝てしまったらしく、彼女の肩に倒れ込んで来ていた。


今日は金曜日だ。一週間たまりにたまった睡眠不足や疲労が理由なのだろうが、このままにしてはおけない。


……幼馴染としても、倫理的にも。

このリーマンだって、女子高校生にもたれかかったとあっては、起きてから大慌てで謝る羽目になるだろう。


「む、無理かもしれない、耐えられないかもしれない……」

「耐えなくていいんだよ、こういうのは」


身体をこわばらせ肘をぴんと立てて動けなくなっている梨々子から、俺はそのリーマンの肩をやんわりと引き離す。

代わりに梨々子のブレザーの肩口に手をやると、こちらへぐっと引き寄せた。


「大丈夫になったか。なってないなら、入れ替わろうか?」

「ううん、もう大丈夫。このままでいい。……ありがとう」

「そっか、了解。たまには役立つだろ、俺も」

「うん、いい番犬。ワン、じゃなくて、バウって吠えるタイプの犬」

「結局、犬かよ……!」

「ふふ、嘘だよ。日向は日向。りりは、一番分かってる」


梨々子の肩を抱きながら、こういうのを恋人っぽい行動と言うんじゃないかと、ふと思った。

さりげなくできたのは、幼馴染である彼女だからだ。


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