クラスの誰にも靡かない美少女と擬似カップル配信者をやっているんだが、最近彼女の様子がどうもおかしい。 美夜さん、なんでくっついてくるの? 俺たちビジネスカップルだよな? 今カメラ回ってないですよ!
第49話 清楚系腹黒幼馴染はいつも一緒にいたい。
第49話 清楚系腹黒幼馴染はいつも一緒にいたい。
「使っていいお小遣いは5千円まで。ひなくん、ちゃんと守ること」
「あぁ分かってるよ」
「それから、決められた範囲の外に出たらダメ。ちゃんと守ること」
「あぁ、分かってる。分かってるんだけど、……なに、これ? なんで俺は移動の電車の中で注意喚起されてんの」
ここまでは聞き流していたが、我慢の限界を迎えて俺はこう指摘する。
校外学習の当日だ。
俺は幼馴染の梨々子と、集合場所である嵐山へと向かって電車に揺られていた。
やっと座席を確保できたと思ったら、しおりを片手にこれである。
同じ制服に身を包んだ学生による、まるで親子のようなやりとりは、同乗した客からも注目の的となっていた。
しかし、メンタルお化けの梨々子に周囲の視線など意味をなさない。
保護者そのものの澄まし顔で、小さな彼女はそのまま続ける。
「そりゃ、寝過ごしかけた挙句、違うとこ乗り換えようとするからだよ。ひなくん、方向音痴。女の子なの、もしかして」
「あれはちょっと、動画のチェックしてたからで…………」
「言い訳無用、いいから聞いて。大事なのは、最後の一つなんだから。ちゃんと班全員で回ってね? 二人は禁止。ちゃんと守ること」
「…………それ、細川さんのこと言ってる?」
やや間があってから、こく、と首が縦に振られる。
それから、しおりを立てて口元を隠し、
「いいな、同じクラス。あたしがあのお邪魔虫と入れ替われたらいいのに」
ここは少し恥じらったらしい。乙女らしく、声をひそめる。
言葉は、紫色の毒をたっぷり含んでいるが。
「……また細川さんをお邪魔虫扱いかよ。
同じクラスになりたかったってのは、俺もそうだけどさ、今更言っても仕方ないだろ」
「ひなくんこそ、そこまでにして。分かってるから、それくらい。言ってもしょうがないことくらい分かってる」
梨々子は、もうこれ以上は聞かないとばかり、目を伏せる。
しかし、もう彼女との付き合いも長い。
強気な態度を見せてこそいるが、それがハリボテであることなど俺にはお見通しだ。
思い返してみれば、別のクラスになったのはこれが小学生以来だ。
中学生の頃、行事ごとはいつも一緒で、記念に撮った写真にはいつも彼女が写っていたっけ。
寂しくなるのも、無理はない。
「別に、また今度行けばいいだろ。お姉も一緒にさ」
「……うん」
まだ浮かない顔をするので、俺は彼女のしおり取り上げて中を開く。
「お、同じところ行くんだな。ほら、この竹林の道。時間も同じくらいだ」
「ほんと? 見つけたら声かけるから、飛んで来て。写真撮ろう」
「……飛んで、って俺は犬かよ」
と言いつつ横を見れば、梨々子の目元は微かに綻んでいた。
そんなに喜ばれるのなら、飛んでいってやらないこともないな、と思う。
わんと鳴いて、しっぽもブンブン振ってやらんでもない。
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