第35話 え、熱海だけど?
「ほら、クイズ番組とかバラエティとかで、よくあるじゃん。大逆転の展開! 最終問題だけ、点数100倍! みたいなさ。
結果が見えきってたら、盛り上がりに欠けるよ? だから、私に逆転勝利のチャンスちょうだいよ」
「…………動画回してるわけじゃないし、別に盛り上がらなくていいんじゃないの」
「へー、そういうこと言っちゃうんだ?」
状況は、彼女の方がずっと悪いはずなのに、翻って余裕すら感じさせる態度だった。
まるで勝利を確信したかのように、にやりと唇を片方だけ吊り上げる。
嫌な予感が背中を走ったのは、気のせいではなかった。
「山名日向は、動画に対してもっと真摯に向き合ってる人だと思ってたなぁ。こういうお決まりは、普段からちゃんと守ってこそのプロじゃないかな」
あーあ、とわざとらしく天井を仰ぎながら、上半身を揺すってみたりする。
本当に落胆したかのように、いかにもそれらしい湿っぽい溜息をついてみたりする。
動画に出演しているからという理由もあろう。彼女の演技力は、なかなかの高レベルだ。
それに加えて、俺のツボをよく知っている。
動画に関する話を引き合いに出されたら、たとえそれが挑発だと見えすいていたとしても、乗らざるをえない。
「……分かった。じゃあ次の案がもし通ったら、細川さんが言う通り、学校での恋人練習は継続だ」
「おー、さっすが! やっぱり違うねぇ、いつかは動画投稿で世界を取る男は! 私、そんな人のパートナーになれて光栄かも」
「調子のいいこと言ってるけど、安心するには早いぞ。まだ細川さんのネタが通ったわけじゃないんだからな」
「はいはい分かってるよー。こんなこともあろうかと、とっておきの切り札、残しておいたの」
切り札、と聞いて、俺はごくりと息をのむ。
これはもしかすると、本当に出るかもしれない。
秘めたる美夜の才能のすべてを詰めた、常識をもひっくり返すような秀逸なネタが――――
「ずばり『二人の運命、一流の占い師さんに占ってもらった~二人はこの先結ばれる?~』です! 最近知ったんだよね、この占い師さん。結構当たる率高くて、どうせ見てもらうならこの人がいいなぁって」
「……おぉ、本当にいいかもしれないな、それ」
思ったよりずっと無難だったが、そこは置いておく。
いずれにせよ、さっきまでよりは現実味もあるし、程よいテーマな気がする。
「お、食いついたっ! 本当にすごいんだって、一回のお値段はまぁまぁするけど、結構当たるらしいよ。温泉利用客たちも大満足だって」
「……へぇ、まぁ占い代くらいなら、経費でなんとかなるか。……って、温泉? どこにいるんだよ。その占い師さん」
「え、熱海だけど?」
もちろん、却下となったのは言うまでもない。
後から聞けば、熱海旅行企画を考えるにあたって調べたところ、検索に引っかかり、どうしても気になったのだそうだ。
ネタの質自体は、特段悪化したわけじゃない。
けれど、なにが彼女を旅行にこだわらせるのか俺にはよく分からなかった。
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