第34話 どうしても俺と旅行に行きたいらしい


ネタ会議は、こうして白熱のうちに過ぎていく。

だが、中盤ぐらいから雲行きが怪しくなり始めて、最終盤に入る頃には、もう大勢が決していた。


「むう。なんで私の案、通らないのっ!」


美夜は憤慨して顔を赤くする。猫の手みたいに握った両手をぱふっとクッションに沈ませて、ぷいっとそっぽを向くが、俺に言わせれば自業自得だ。


「……いや、当たり前だろ。熱海に一泊とか、とか日帰りで金沢とか、無理な話ばっかり持ってくるからだろ。そもそも泊まりは、ダメだっての。全部お金もかかるし、恋人でもないのに泊まりは倫理的にもまずいし」


これまでのネタ会議において、美夜は真面目なネタを提案してくれることがほとんどだった。


斬新なアイデアを考えるのは苦手らしいが、代わりに彼女は結構、研究熱心だ。他の投稿者さんの動画を参考にして、使えるアイデアを出してくれた。


それが今日はなぜか、どうしても遠出がしたいらしい。


「そこは、否定できないけどさぁ。ちょっとはお楽しみ要素があってもいいと思うの。ね、きっとノドグロ美味しいよ? 金粉かかったソフトクリーム食べよ? ほっぺについたら、舐めとってあげる」


「ノドグロがいくら美味しくても、頷かないっての。というか舐めるな、せめて爪ではがしてくれ。

 サンダーバードには乗らないし、兼六園にもいかないよ、俺は。

 関西人らしく、兵庫県民らしく、タコ食べてような。それに、ほら。遠出なら、今度の校外学習で京都に行くだろ」

「えー、それ、学校の行事じゃん~」


美夜はへそを曲げたらしかった。まったく納得した様子はない。

それどころか、


「じゃあせめて、次の案が通ったら、学校での恋人の練習は継続しよ? ね、お願い!」


こんなふうに、俺としてはなんの得もない交渉を持ち掛けてくる。

いや、まるで神に祈るかのように、両手をすり合わせて懇願する。


なんでそこまで……と思わざるを得ない。


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