第36話 ネタ会議(裏)【美夜side】
失敗したな、とは自分でも思った。
けれど、私自身気づかないうちにそうなっていたのだから、それ以上は悔やんでも仕方がない。
山名日向と旅行に行ければ、どれほど楽しいだろう。どれほど幸せになって、笑顔でいられるだろう。
そんなふうに、夢見がちな少女よりお花畑な頭で生み出したネタは、案の定、却下となった。
……うん、仕方ない。
まったくもって自業自得なので、これで日向を恨んだりはしない。
だけど、なんとしても旅行に連れ出すため、私なりには努力した方ではあるのだ、一応。
想い人・山名日向は、動画のこととなると、多少の無理なら聞いてくれる。普段なら誘えないことでも、動画を盾にすれば無理を通せないこともない。
そこを狙って、動画のネタになりそうな情報をそりゃまぁ結構努力して、収集した。
ある時はネットで調べてみたり、旅行代理店の店頭からパンフを取ってきてみたり、友達に話を聞いてみたり。
私的には、結構真剣にやっているつもりだった。
撮影の効率や休憩時間なども考えて、細かなスケジュールを考えるのは、結構に大変だからだ。
だから、友達に指摘されるまでは気づけなかった。
「美夜、なんか楽しそうにしてると思ったら、なにそれ。旅行でも行くの?」
「……えっ、楽しそうだった、私」
「なに、自覚なし? すごい、にこにこしてたよ。絵文字のマークそのものくらい。なに、彼氏でもできたの? 二人で旅行?」
「ち、違うよー。これはえっと、親と旅行に行くから、ちょっと旅程を考えてただけだよ」
私はけらけらと笑って、ありえない嘘でごまかした。
すぐにノートを閉じて見せたが、果たして誤魔化せたのかどうか。首から上が火照って、熱くなっていた。
こんな自覚があるのだから、たぶん外から見たら、相当赤くなっていただろう。
「ほんとにー? 年上の彼氏さんとかいるんじゃないの?」
「……そんなものは、いないよ。幻想の生き物作り出さないで。虚しくなっちゃうから」
「とか言って。美夜のレベルになったら、恋愛なんて簡単じゃないの? うちが美夜だったら、クラスの男子たちより、大人でクールなイケメン捕まえてくるなぁ。
美夜にかかれば、誰でもころっといくでしょ、誰でも。モデルとかアイドルでも狙えるでしょ。全部おごりで、旅行とか連れて行ってもらえそう!」
イケメンでクール。
たしかに、山名日向は部分的にはそうかもしれない。
あえて社交性のないキャラを演じることで、ぼさっと覇気のない高校生を演じている彼はともかくとして。
動画を撮っているときの日向は、世間的に見たってかなりの美形だ。
ただ一つだけ、友人のセリフには明らかに異なる部分があった。
「そんなことないよ、全然」
そう簡単に、日向はころっとは落ちてくれない。
私がちょっと気を引こうとしっぽを振ったくらいじゃ、その視線はこちらに向くことすらない。
そりゃもう、超強敵な幼馴染が彼のそばには、ついている。
「またまた、謙遜してくれてさぁ」
「ほんとに、そんなんじゃないんだよ」
私は、窓際で風に揺れるカーテンの方へと目をやる。
あの内側に身を隠している日向は、当然気づいていない。私がこうして視線を送っていることも、どんな思いでいるかもたぶん分かってない。
今の私たちは、まだそんな次元だ。
けれど、きっといつかは日向の方から見つめ返させてやる。二人見つめあって、テレパシーみたいに通じ合って――。
「ね、美夜? どこ見てるの? 窓の外?」
「あは、ごめん。ちょっとぼうっとしてた。黄昏たい気分だったんだよねぇ」
友達にはそう誤魔化したけれど、気持ちまでは同じようにはいかない。その時にはもう、どうしても叶えてくなってしまった。
この会話ののち、私は再び、旅行企画を練りはじめた。
いくら望み薄だったとしても、提案くらいはしてみてもいいはずだ。もしかしたら、なにかの間違いで通って、二人で旅行にいけるかもしれない。
そんなチャンスがそこに転がっているというのに、チャレンジもせずに諦めたくはない。
……だから、ネタが通過しなかったのは、その挑戦の勲章だ。
悔しいけれど、今回考えた企画は、いつか本当に二人で旅行に行く日のことを願って、取って置くこととする。
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